スマート工場EXPO 特集

AIで原料を判定、食品業界全体にAI活用拡大を目指すキユーピーの挑戦スマート工場EXPO2020

「第4回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」の特別講演にキユーピー 生産本部 生産技術部 未来技術推進担当 担当部長の荻野武氏が登壇。「Non AI食品製造業キユーピーにおけるAIによるイノベーション 〜協調領域で業界に貢献〜 」をテーマに、同社のAI(人工知能)技術を使った原料検査装置の開発や食品業界協調領域におけるAI活用力強化に向けての取り組みを紹介した。

» 2020年04月03日 11時30分 公開
[長町基MONOist]

 「第4回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」(2020年2月12〜14日、東京ビッグサイト)の特別講演にキユーピー 生産本部 生産技術部 未来技術推進担当 担当部長の荻野武氏が登壇。「Non AI食品製造業キユーピーにおけるAIによるイノベーション 〜協調領域で業界に貢献〜 」をテーマに、同社のAI(人工知能)技術を使った原料検査装置の開発や、食品業界の協調領域におけるAI活用力強化に向けての取り組みを紹介した。

AI画像認識技術により原料の検査を

photo キユーピー 生産本部 生産技術部 未来技術推進担当 担当部長の荻野武氏

 キユーピーは、創業以来「良い商品は良い原料からしか生まれない」という考えのもと、安全・安心、おいしさを追求した食品づくりに励んできた。この原料に対するこだわりを大切にしながら、最新の技術との掛け合わせにより、より安全・安心なモノづくりを目指している。荻野氏は「キユーピーでは、AIは現場力と掛け合わせて、イノベーションを起こし、企業価値を高め、顧客の価値を創造するために活用する。強い現場力にAIを掛け合わせるのが基本的な考えだ」と強調した。

 工場の製造現場における作業の高速化、省力化、高度化を進める中で、人間の体力に当たる部分を機械化するのがロボットであり、知力の機械化を進めるのがAIになる。ただ「人間は知力と体力だけではなく、心がある。この心が重要であり、この部分は置き換えることは難しい。今後この領域まで踏み込んだ自動化ができるのかどうかが重要な部分となってくる」と荻野氏は語る。

キユーピーが取り組むAI活用

 キユーピーでは、AI技術の中でもディープラーニングの登場により進化が著しい画像認識技術に注目し、原料検査装置での活用を検討した。既に画像認識技術を活用した原料検査装置の採用も行ったが、導入した装置では十分な精度が得られず、また高額なものだった。中小企業が中心の多くの食品メーカーでは高額な装置の導入は厳しい状況にある。そのため、従来製品の10分の1の価格にすることを大前提とし、性能も世界トップに引き上げ、さらに中小の食品・原料品メーカーにも使用しやすいようにエンジニアがいなくても簡単に使えるものにするという目標を定め、自社製品の開発に取り組んだ。

 既存の原料検査装置の大半は、不良品を登録して判別する検査方式をとっている。この装置では、色差などで不良品のパターンを学習させる手法が一般的だ。しかし、変色や変形、さまざまな夾雑物(きょうざつぶつ)など不良パターンが無限にあることから、高い精度を出すのが困難だった。一方、同社の原料検査装置は、発想を逆転し良質なものを判断する検査方式とし、AIに良品のパターンを学習させたことが特徴だ。これにより、「良品以外」を全て「不良」として検出することが可能になり、精度を飛躍的に向上させることに成功した。Googleや日立製作所の協力を得てプロトタイプの製品を作成し最終的に2018年8月に実際のライン導入を行ったという。

 同社が開発したAI原料検査装置のもう1つの特徴に「シンプル&コンパクト」がある。生産現場の声をもとに改良を重ね、ボタン1つで誰でも操作できる簡便な操作性や、簡単に分解し洗浄できるシンプルな構造、狭い加工場でも多くのスペースを必要としないコンパクトさを実現した。低価格、高性能、シンプル操作を達成した同製品は、多種多様な原料の検査装置として、グループ内での展開を進めている。なお、同社では生産本部から開発したAIを各部門に提供しており、現在43のAIプロジェクトが進んでいる。さらに、その中で13のシステムが既に稼働し始めているという。

 キユーピーでは3000種類以上の原料を使っており、さまざまな原料に対応するため、現在も可視化技術などの技術開発を進めている。例えば、誤動作しないように反射しない照明や、野菜の中に隠れている虫を発見するための技術などの開発も進めているという。

食品製造業界全体の効率化へ

 萩野氏は食品メーカーのAIの導入スキームについて「それぞれの企業がAIソリューション企業と一緒に、同じようなシステムをバラバラに作っている状況だが、これは非効率だと考えている」と述べる。どんなに小さな役割のものでも、1つのAIシステムを作るのには5人の技術者が関わるといわれている。荻野氏は「食品製造業は、現在国内に5万社があるとされ、各会社が個別にシステムを作り始めると食品製造業者だけで250万人のAIエンジニアが必要となる。ただ、これを一部の先進企業が1つのモデルを作成して共有することができれば50人で十分になる。こうした考えが重要なテーゼだ」と考えを述べている。

 キユーピーでは、「原料の安全安心を世界へ」という業界の共通課題をベースとし、AIによって業界全体の協調領域における共有課題に解決を目指す。そのため、今回開発したAI原料検査装置を他社にも提供する考えだ。「既に80社を超える食品メーカーから引き合いがあるが、この装置販売で利益を追求しようとは考えていない。業界全体の高度化を目指すものだ」と荻野氏は語っている。

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