連載
» 2020年04月20日 06時00分 公開

IPパケットに載せられて運ばれるもの、UDP/TCPとその上位プロトコルはじめての車載イーサネット(4)(5/5 ページ)

[中村伸彦(ベクター・ジャパン),MONOist]
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車載イーサネットで用いられる上位プロトコル

 最後に、ここまでお話してきたイーサネットやTCP/IPの上で用いられる車載プロトコルのうち、SOME/IPとDoIPの2つを簡単に紹介していきたいと思います。

SOME/IP(Scalable service-Oriented MiddlewarE over IP)

 SOA(Service Oriented Architecture、サービス志向アーキテクチャ)と呼ばれる、大規模コンピュータシステムを構築する上での考え方・手法があります。これはネットワーク上に存在する複数の機能(サービス)を複数組み合わせることで、新しいシステムを作っていくもので、さまざまな要求に素早く対応できるのが特徴です。この考え・手法をクルマに取り入れる際に使われるのが、サービス志向通信である、このSOME/IP(※10)およびSOME/IP-SD(以下、SOME/IP)と呼ばれる上位レイヤープロトコルです(図8参照)。

(※10)BMWが提唱したプロトコルで、AUTOSAR仕様の一部になっています。

図8:OSI参照モデルにおけるSOME/IPとその機能(クリックして拡大) 出典:ベクター

 現在のクルマでは、特定の機能(サービス)はECUに強くひもづけられていて、それを外から使うのは容易ではないという状況があります。将来的にクルマがスマートフォン化していくに当たっては、新しくダウンロードしたアプリが、クルマのネットワークにあるさまざまな機能を見つけ出し、それを自由に使える仕組みが必要で、このプロトコルはイーサネット・TCP/IPの特徴(大量の情報を高速に、必要に応じて特定または複数の相手に送ることができる)を生かして、それを実現します。

 このSOME/IPでは、情報のやりとりの代表的な仕組み(メッセージ)として下記のようなものがあり、提供されるサービスごとにそれらを組み合わせて使っています(図9-1、図9-2参照)。

  • リクエストレスポンス:あるサービスが提供しているメソッド(処理、手続き)を呼び出し、その結果を受け取る
  • ファイアアンドフォーゲット:あるサービスが提供しているメソッドを呼び出す、結果は求めない
  • イベント:特定の事象(イベント)が発生するとサーバ(サービス)からノーティフィケーション(通知)を送る
  • フィールド:サーバが持つ値を操作(読み出し、書き込み)する、その値が変わった時に通知を送る
図9-1:リクエスト/レスポンスとファイアアンドフォーゲット(クリックして拡大) 出典:ベクター
図9-2:イベントとフィールド(クリックして拡大) 出典:ベクター

DoIP(Diagnostic over IP)

 連載第2回のフィジカルレイヤーで、診断テスターと診断ゲートウェイ(以下、診断GW)と呼ばれるECUをつなぐものとして100Base-TXを紹介したのを覚えていらっしゃるでしょうか。その時に診断通信に使われる上位プロトコルとして紹介したのが、このDoIP(Diagnostic over IP, ISO13400)です(図10参照)。

図10:OSI参照モデルにおけるDoIPと大まかな特徴(クリックして拡大) 出典:ベクター

 このプロトコルはTCPやUDPの中にDoIPメッセージ、そしてその中に診断メッセージを載せてやりとりするための仕組みです。1番のポイントは、イーサネット・TCP/IP通信が使われるのは、あくまで診断テスターと診断GWの間だけであって、診断GWから先は、例えばCAN通信によって従来通りの診断通信が行われているのが、まだ一般的であるということです(図11参照)。つまり診断GWは、DoIPによって運ばれてきた診断メッセージ(例えば、UDSのSIDとDIDに基づく)をCANメッセージに載せ換えて、最終的な診断対象であるECUとやりとりをしているのです。それでも、従来の通常のCANによる診断通信と比較すると速さは向上しています。

図11:DoIPメッセージのやりとりの主体、診断テスターと診断ゲートウェイ(クリックして拡大) 出典:ベクター

まとめ

 今回は、IPネットワーク上のプロトコルTCPとUDPのPDU(主にPCI、ヘッダ)構造と振る舞い、さらにはそのTCPとUDPを使って実現する上位プロトコルSOME/IPとDoIPを紹介しました。これ以外にも、複数のプロトコルが車載イーサネット上では使われ始めています。今後、本格的にクルマがスマートフォン化(CASE対応)していくにつれ、より多くのプロトコルが使われるようになるでしょう。それと同時に、物理層も変化していくことが予想されます。

 今回で本連載は終了しますが、それらの変化に皆さまがついていくための基本的な知識を、ここまでの4回で少しでも提供できたのであれば幸いです。

(連載終わり)

筆者紹介

ベクター・ジャパン株式会社 トレーニング部 テクニカルトレーナー
中村 伸彦(なかむら のぶひこ)

ベクター・ジャパンにて、AUTOSAR関連およびイーサネットのトレーニングサービスに従事。限られた時間のなかで、受講者の役に立つ情報を、より分かりやすく提供することを目指し、日々業務に取り組んでいる。

▼ベクター・ジャパン

https://www.vector.com/jp/ja/

▼トレーニングサービス専用サイト

https://vector-academy.com/vj_index_jp.html

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