特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

デジタル化が加速する世界、製造業が革新を生み出すには何が必要か製造業にダイナミズムをもたらすデジタル変革(1)(2/2 ページ)

» 2020年04月23日 10時00分 公開
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インダストリー4.0のさらにその先へ

 ドイツ政府が中心となって提唱しているIndustrie 4.0(インダストリー4.0、第4次産業革命)については、既にご存じの方も多いかと思います。蒸気機関による人力作業の代替に端を発した産業革命は、その後大量生産(第2次産業革命)、生産自動化(第3次産業革命)と、人類の産業社会を発展させてきました。そして近年の急速なデジタル化により、デジタル革命ともいえるインダストリー4.0が世の中を席巻しつつあります。

 アクセンチュアは、インダストリー4.0のさらに先―ポスト・デジタルの世界―を見据え、産業を「再定義」する指針として「インダストリーX.0」を訴えています。それにはさまざまな側面がありますが、例えば製造業においては、個々の顧客を対象としたビジネス、つまり一人一人に最適化された製品あるいはサービスを提供するために、最先端の技術領域(AI、アナリティクス、3Dプリンティング、拡張現実など)を統合し活用しています。

 「インダストリーX.0」のコンセプトの下、アクセンチュアが支援を行い、製造業が新たに開発した製品/サービスを見てみましょう。

 高品質なコーヒーメーカーを製造するKeurig Green Mountain(以下、キューリグ)は、大手酒類メーカーのAnheuser-Busch InBev(以下、インベブ)と共同で、家庭で手軽にカクテルを楽しむことができる「ドリンクワークス ホームバー」というカクテルメーカーを開発しました(図4)。

図4 図4 「ドリンクワークス ホームバー」(クリックで拡大) 出典:http://drinkworks.com

 「ドリンクワークス ホームバー」は、1ボタンの操作で材料をかき混ぜたりシェイクしたりしてカクテルを作ります。材料の組み合わせや配合率などはユーザーの好みに応じて自由に設定、つまりパーソナライズできるのですが、それを可能にしたのは、キューリグがコーヒーメーカーとして持っている専門性と、新しい技術や知見です。かねて新しいハードウェアを開発したいと考えていたキューリグとアクセンチュアがタッグを組み、製品デザイン、ソフトウェア、IoTの組み込みやデジタルマーケティングに至るまで協働しました。

 また同時に、飲料ビジネスにおけるイノベーションを模索していたインベブに対してアクセンチュアは、カクテルの構成要素を高付加価値の材料(リカー、果汁、香料など)とコモディティ化された材料(水・炭酸水)に分類し、前者を種類別の小袋「ポッド」の様態(図4の左側)で提供し、後者はユーザーに用意してもらうことで、自社商品の価値を低い物流コストで提供する、という新しいビジネスモデルを提案しました。

 このカクテルマシンはネットワークに接続され、メーカーは個々のユーザーの使用消費状況を直接把握することができ、材料の補充のタイミングを図ったり、新製品開発への洞察を得たりとさまざまな価値を得ることができます。

収益化できる新規の製品やサービスを開発するために

 スマートな製品/サービスを実現するためには、サービスデザインから製品エンジニアリング、運用検討に至るまで過程を創り出しながら、迅速にアイデアを具現化するような「場」が有用です。

 この「場」では、ハードウェア、ソフトウェア、ツール群、AIプラットフォーム、UIデザインの専門家、共創空間をそろえ、ハードウェアとソフトウェア両方の側面で、顧客体験、外観意匠、製品/サービスの機能性を繰り返しプロトタイピングし、検証できます。

 アクセンチュアは、スマートな製品やサービスを実現するこういった「場」を提供しており、サービスデザインから製品エンジニアリング、運用検討に至るまでの一連の過程を顧客と一緒に創り、迅速にアイデアを具現化するための支援を行っています。

 なお、日本でも、2018年1月に東京・麻布に「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」を開設し、顧客などを招いてアクセンチュアのさまざまな専門家とともにイノベーションを創出する共創の取り組みを実践しています。

 こういった「場」を活用することで、企業は従来と比べてはるかに短期で製品開発ができ、迅速にビジネス変革を進めることができると考えています。

図5 図5 スマートな製品/サービスの実現を容易にする「場」の機能イメージ(クリックで拡大) 出典:アクセンチュア


 今回は、デジタル化が加速する世界や、インダストリー4.0のその先を見据えた、新しい製品/サービス開発の実例と考え方について述べました。次回(第2回)は、デジタル変革の柱の1つである、デジタルを活用したオペレーション(業務)の改善について詳しくご説明したいと思います。

筆者プロフィール

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志田 穣(しだ みのる) アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 インダストリーX.0 エンジニアリング領域リード

設計開発領域を核として、複数の製造業デジタルトランスフォーメーションプロジェクトを統括。アクセンチュア入社前は、原価管理ソリューション、開発における法規文書管理など多岐にわたるPLMプロジェクトを推進。また、産業IoT事業開発企画等のコンサルティング、自動車を中心とした組立系製造業にCAD/PLMツールの導入や、それをてこにした設計開発業務のプロセス改革に従事した経験がある。

アクセンチュア株式会社 https://www.accenture.com/jp-ja

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