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» 2020年05月15日 08時00分 公開

弁護士が解説!知財戦略のイロハ(1):モノづくり企業が知財戦略に取り組む意味とは? (2/4)

[山本飛翔,MONOist]

活用例2:「独占」と「公開」を両立するオープンクローズ戦略

 MTGの例では、同社は特許権の取得という、ある意味で「権利の独占」を通じて競合他社に対して有利な立ち回りを獲得していました。このように「特許」と聞くと「権利の独占」という側面を強く思い浮かべる読者の方も少なくないと思いますが、知財戦略において特許権を始めとした各種知的財産権は「独占」のためだけに用いられるわけではありません。一例として、代表的な知財戦略の1つである「オープンクローズ戦略」では、自社が保有する特許群の一部を他社が利用できる状態(オープン化)にすることを推奨しています。

 「オープンクローズ戦略」とは、自社の製品やサービスについて、コア領域を特定した上で、市場拡大のためのオープンな領域と、自社の利益を確保するためのクローズな領域を構築する戦略です。以下の図で示すように、オープン化領域においては、自社技術を標準化、規格化などし、他社に自社技術の使用を積極的に認めます。ただし多くの場合は無償または安価に特許権などの知的財産権の活用を認めるものの、自社の影響力を残すため、一定の条件下でライセンス(許可)します。

 これに対して、自社の競争上の強みとなるコア部分の「独占」を旨として、コア技術などの自社の強みを完全に秘匿化(ブラックボックス化)するのがクローズ化領域です。秘匿化以外にも、特許出願などにより情報は公開するものの、特許権などの知的財産権に基づいて自社の独占権を確保するというケースもあります。

オープンクローズ戦略の概要を示す図式[クリックして拡大]出典:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2013/pdf/honbun01_03_03.pdf□経済産業省Webページ(PDF) オープンクローズ戦略の概要を示す図式[クリックして拡大]出典:経済産業省Webページ(PDF)

 以上のように、コア領域を特定し、クローズ化領域とオープン化領域を区分することがオープンクローズ戦略の基本ですが、実際にはコア技術を単に秘匿化するだけでは十分ではありません。クローズ化領域を守りつつも、同時にオープン化領域に強い影響力を持たせ、コア技術の利用者を増やしていく仕組みの構築が必要です。

 こうした仕組みづくりのメリットについては、小川紘一氏が自身の提唱した「毒まんじゅうモデル」の中で説明しています*1)。毒まんじゅうモデルではオープン化領域における標準化戦略をまんじゅうの「皮」、クローズ化領域における秘匿化または特許化されたコア技術を「餡」と見立てます。そしてオープン化領域で市場のプレイヤーを増やしつつ、コア領域の技術の利用者を増やすことが、結果的に当該技術をベースにした技術革新の促進につながり、業界の方向性を常に主導するようになると説明します。一度市場を支配した技術は、市場のプレイヤーに大きな影響力を及ぼします。その結果、各プレイヤーは他の類似技術に乗り換える気が起きなくなり、自社の技術を使用し続けることとなります(こうした循環を起こす仕組みが中毒性のある食べ物を想起させる、ということで「毒まんじゅうモデル」と命名されたものと思われます)。

*1)小川紘一『オープン&クローズ戦略(増補改訂版)』(翔泳社、20115年)360頁。

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