弓旋盤からスマートファクリトリーまで、動く工作機械の博物館が目指すものモノづくりショールーム探訪(1/3 ページ)

ヤマザキマザックは創立100周年事業として2019年11月に「ヤマザキマザック工作機械博物館」を開館した。同館では国内外の工作機械を稼働可能な状況に整備して展示していることが特徴だ。副館長である高田芳治氏に、開館の経緯や展示の概要、見どころについて話を聞いた。

» 2020年06月01日 11時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 工作機械は工業製品の製造に不可欠であることから、機械を作る機械、つまり「マザーマシン」といわれる。しかし、こうした工作機械が一般の人々の目に触れることは少なく、実際にどういうもので、どういう動きをするのかが広く理解されているとはいいがたい。

 こうした状況を打破し、製造業の人材育成にもつなげる目的でヤマザキマザックが2019年11月にオープンしたのが「ヤマザキマザック工作機械博物館」(館長:山崎智久ヤマザキマザック会長、岐阜県美濃加茂市)である。「ヤマザキマザック工作機械博物館」は、ヤマザキマザックの創立100周年事業の一環で設立され、国内外の工作機械を動く状態に整備して展示している。身近な工業製品やAR(拡張現実)技術を使って工作機械を分かりやすく紹介し、現代の名工たちによるワークショップなども開催している。同館の副館長である高田芳治氏に、開館の経緯や展示の概要、見どころについて話を聞いた。

photo 図1 ヤマザキマザック工作機械博物館の入り口(クリックで拡大)

産業革命以前から近未来工場まで

 ヤマザキマザックは1919年の創業以来、工作機械を通じて世界中のモノづくりの発展に貢献してきた。「ヤマザキマザック工作機械博物館」は、この創業以来作り上げてきた工作機械や、これらで作られた工業製品を展示している。世界でも工作機械専門の博物館は珍しいという。

photo 図2 入り口には山崎鉄工所(現ヤマザキマザック)が1927年に製造したベルト掛け旋盤が置かれている(クリックで拡大)

 「ヤマザキマザック工作機械博物館」で地上に見えるのは、ガラス張りのピラミッド型の入り口だけだ。ここからエレベーターで地下11mに降りると、2700m2の広い展示室が広がる。展示は古代エジプトの木工用の弓旋盤からはじまり、近代製鉄の始まりとともに登場した近代工作機械、電気モーターが機械1台ずつに搭載された直結型工作機械、数値制御によって自動化された工作機械というように、工作機械の進化の過程が、第1次、第2次、第3次産業革命に対応する形で紹介されている。

photo 図3 名古屋で製造され1975年まで活躍した蒸気機関車(クリックで拡大)

 芸術的なフォルムを持つ人力工作機械や複雑に動く歯切り盤、10mのサイズを加工できる大型旋盤、巨大なマシニングセンタなど、見応えは十分だ。産業革命の象徴である蒸気機関車(図3)や、大量生産の代名詞にもなっているT型フォード、さまざまな形と材料の部品からなる航空機なども展示されており親しみやすい。

 また同館にあるのは過去の機械だけではない。後半のフロアには、ネットワークでつながった最新の工作機械やロボット、搬送装置が並ぶスマートファクトリーが稼働していて、最新の工作機械に使用される部品を製造しているのも見どころの一つだ。

 この博物館は、レーザー加工機の生産工場の跡地を利用している。レーザー加工機の組み立てではクリーンな空間が必要なため、地下に工場をつくった。地下11mの深さにあるため、年間を通じて16〜18℃になる。外気を取り入れる際は、全長数百mの熱交換チューブを通過させることによって、外気温が34℃の場合でも、地下工場内は28℃以下を維持できるという。

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