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» 2020年06月05日 08時00分 公開

医療機器ニュース:鼻腔内の検体採取を自動化、医療従事者の感染リスクを減らすロボットシステム

メディカロイドは2020年6月3日、記者会見を開催し、新型コロナウイルス感染症への対応などを目的とした「自動PCR検査ロボットシステム」を神戸市と連携して開発すると発表した。PCR検査にロボットを導入することで、検査過程で医療従事者がCOVID-19に感染するリスク低減などを狙う。

[池谷翼,MONOist]

 メディカロイドは2020年6月3日、兵庫県神戸市市役所で記者会見を開催し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応などを目的とした「自動PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査ロボットシステム」を神戸市と連携して開発すると発表した。メディカロイドは川崎重工業と臨床検査機器を手掛けるシスメックスが共同出資して2013年に設立した医療用ロボットを開発する共同出資会社である。COVID-19の診断で行うPCR検査にロボットを導入することで、検査過程で医療従事者がCOVID-19に感染するリスクの低減や、検査に必要となる人手不足の解消を狙う。

 会見冒頭で神戸市長の久元喜造氏は、COVID-19を巡る現在の社会的状況について「全国で緊急事態宣言が解除されたが、これに伴い国内でのCOVID-19の感染状況は『感染拡大期』から『感染警戒期』に移行したと考えている。完全に収束したわけではなく、感染が再拡大する恐れもある。この状況では感染拡大の兆しを早期に発見することが重要で、そのためにはPCR検査体制を十分に整備しなければならない」と認識を示した。

神戸市長の久元喜造氏 神戸市長の久元喜造氏

 ただPCR検査の拡充を進めるにあたっては、多くの課題が存在する。1つはPCR検査過程における医療従事者の感染リスクだ。患者からの検体採取や、検体の感染力をなくすための不活化処理は手作業で行う必要があり、感染リスクを排しきれない。2つ目は人材難である。不活化処理や核酸抽出、遺伝子増幅などの各種処理は高い技術力が求められるため、人材確保が進みにくい。

 こうした課題を解決するためにメディカロイドが開発したのが「検体採取ロボットシステム」である。同ロボットシステムは「患者からの検体採取用のロボットシステム」「検体分析用のロボットシステム」「病院や宿泊療養施設でのサポート用ロボットシステム」の3つで構成されており、それぞれの現場での人手作業をロボットで自動化することを目指す。

メディカロイドが開発するロボットシステムの全体概要[クリックして拡大]出典:メディカロイド メディカロイドが開発するロボットシステムの全体概要[クリックして拡大]出典:メディカロイド

 1つ目の「患者からのPCR検体採取用のロボットシステム」は医療従事者が保菌者と直接接触する頻度を低減させるというものだ。川崎重工業が開発した協働ロボット「duAro2」を活用し、患者の鼻腔に専用の綿棒を差し込んで検体を採取する。同ロボットシステムを活用する利点について、メディカロイド 代表取締役社長の橋本康彦氏は「ドライブスルー方式のPCR検査でも鼻腔内から検体を採取するが、その際、鼻腔入り口部分だけをさっと綿棒で拭うだけで済ませることがある。この方法では検査結果で偽陰性が生じやすい。患者に負担をかけないことを前提に、綿棒を奥まで差し込んで検体を採取することが本来は望ましいだろう。だが、奥まで入れるとくしゃみが出やすくなり、医療従事者の飛沫感染リスクが高まるという問題もある。その際の感染リスクを低減するのがduAro2を使ったロボットシステムということになる」と説明する。

メディカロイド 代表取締役社長の橋本康彦氏 メディカロイド 代表取締役社長の橋本康彦氏

 遠隔操作時に医師は手元の画面で綿棒と鼻腔の距離や、挿入時の力のかかり具合をデータとして参照できる設計になっている。加えて患者の鼻の形状や、鼻腔内の蓄膿といった既往歴に関するデータも閲覧可能で、患者に苦痛をなるべく与えずに検体採取が行えるよう配慮されている。

 ただ、鼻腔奥への綿棒の挿入は医療行為と見なされるため、医療機器として認証を受ける必要がある。このためメディカロイドは、医療認証の必要ない唾液から検体採取を行うロボットシステムを別途開発し、こちらを鼻腔から検体採取するロボットシステムに先駆けて運用開始する予定だ。唾液から検体採取を行うロボットシステムは、患者に容器内に唾液を吐いてもらい、その容器を収納、搬送するところまで医療従事者が遠隔操作で行う仕組みとなっている。

「duAro2」を活用した鼻腔内の検体採取用ロボットシステム[クリックして拡大]出典:メディカロイド

 2つ目の「検体分析用のロボットシステム」は分析工程のうち人手作業が中心となっている作業をロボットで自動化する。不活化処理や、処理後の検体を専用のパレートに注入する作業、PCR反応液試薬の調整やシーリング作業、そして増幅器への検体投入作業などを全てロボットに任せることで、検査員の感染リスクを低減する。橋本氏は「仮にパンデミックが発生してもロボットだけで24時間体制で回せるか、今後検証を行って確かめる。検証には神戸市内の医療産業都市にある衛生検査所『シスメックスBMAラボラトリー』の施設を使用する」と語った。

不活化プロセスにおけるロボット活用の様子 不活化プロセスにおけるロボット活用の様子

 3つ目の「病院や宿泊療養施設でのサポート用ロボットシステム」は移動型ロボットを活用することで軽度感染者の病室サポートなどを実現するというものだ。遠隔指示が可能な産業用ロボット「TRanbo」を医療用にカスタマイズして使用する。ロボットは患者への食事や薬の搬送を自動で行い、また、医療従事者が患者とは別室から遠隔操作することで簡単な問診や、体温測定や心音確認などのバイタル測定を行える設計になっている。

患者に食事を配膳するロボットのイメージ[クリックして拡大]出典:メディカロイド 患者に食事を配膳するロボットのイメージ[クリックして拡大]出典:メディカロイド

 橋本氏は今回発表したロボットシステムについて「COVID-19は国内だけでなく世界中に広がる大きな問題だ。COVID-19の感染再拡大を防止するために、日本が世界をリードしているロボット分野において医療貢献を果たしたい。神戸市で効果を実証したのち、ロボットシステムを今後世界中に広げていきたいと考えている」と語った。

 今後メディカロイドでは、2020年6〜9月にかけて各種ロボットシステムの設計、製作、評価を行い、同年10月から神戸市の医療研究開発拠点である神戸医療産業都市の施設で運用を開始する予定。

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