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» 2020年06月25日 08時00分 公開

製品を開発するときに作成すべき契約と規程は何?弁護士が解説!知財戦略のイロハ(3)(2/3 ページ)

[山本飛翔,MONOist]

開発を担当した社内従業員とのトラブル回避に必要なこと

製造方法やノウハウを守るための「営業秘密の管理」

 次に取り上げるのは(2)製品開発の全部または一部を自社で行う場合です。自社で新製品の開発を行う場合、その過程で、開発のノウハウ*5)や、今後特許出願すべき発明や意匠出願すべき未公開の形状など、多数の営業秘密が生まれることになります。そのため、特許・意匠出願できる状態を確保した上で、当該秘密を不正競争防止法上の「営業秘密」として保護できるように(主に秘密管理性要件との関係で重要です*6))方策を講じる必要があります。具体的には、従業員に契約上の守秘義務を課す、また、秘密管理規程を設けて従業員に営業秘密の流出防止を意識付けることが望ましいといえます。

 また、営業秘密の管理という観点からは、特許出願への取り組み方にも注意していただきたいところです。モノづくり企業の場合、製造方法そのものだけでなく製造方法に関するノウハウも特許出願の対象となりえますが、第三者にその内容が公開されてしまうというデメリットもあります。万が一、特許を参照した模倣行為が発生しても、模倣行為の立証やそもそも模倣の発見自体が難しいという問題もあります。それらを考慮に入れると特許出願ではなく、不正競争防止法上の営業秘密として製造方法やノウハウを守っていくという方法も、重要な選択肢となるでしょう。

 具体的な秘密管理規程の内容については、経済産業省が規程作成用のひな型を公開しているので、そちらを参照していただければと思います*5)。以下では秘密管理にあたって特に留意すべき点を、要点を絞ってご紹介します。

*5)経済産業省「各種契約書等の参考例」

 秘密情報の管理方法は、不正競争防止法上の「営業秘密の秘密管理性*6)」の要件と関連して重要です。秘密管理措置は「営業秘密」が「営業秘密ではない情報」(一般情報)から合理的に区分されていることと、ある情報が「営業秘密」にあたることを明らかにする措置とで構成されることをその要件とします。合理的区分*7)とは、企業の秘密管理意思の対象を従業員に対して一定程度明確にする観点から、営業秘密が、情報の性質、選択された媒体、機密性の高低、情報量などに応じて、一般情報と合理的に区分されることをいいます。

*6)要件充足性の判断に関して、パスワードなどによるアクセス制限、秘密であることの表示がなかったにもかかわらず、全従業員数が10人であり、性質上情報への日常的なアクセスを制限できないことを考慮して秘密管理性を肯定した(大阪地判平成15年2月27日(平成13年(ワ)10308号))裁判例など、企業規模が考慮された事例もある。だが全事例に同様の判断が確実に下されるとは言い切れず、油断してはならない。

*7)例えば紙の1枚1枚、電子ファイルの1ファイルごとに営業秘密であるかを表示するよう求めるものではない。企業の規模、業態ごとの媒体の通常の管理方法に即して、営業秘密の情報を含むのか、一般情報のみで構成されるかを従業員が判別できればよいとされている。

 そのため、秘密管理規程において秘密情報を定義した上で、秘密情報がいかなる重要度の秘密情報かを従業員が認識できる形で管理する必要があります。具体的には、電子データで保管する情報の場合は、「極秘」や「社外秘」などの重要度に応じてフォルダを分けて保管する、ファイル名に「極秘」や「社外秘」等の分類を明示して保管した上で、アクセス権限を指定した者のみに制限する、指定された者のみに当該ファイルのパスワードを開示するなどの措置が必要となるでしょう。

 またこの他にも、従業員に対する意識付けも兼ねて、顧問弁護士などに、従業員向けの営業秘密に関する勉強会を開催してもらうことも考えられるでしょう。

従業員との訴訟リスクを回避するために「職務発明規程」を作成

 従業員が会社の職務として発明やデザインなどを行った場合、これらの特許権や意匠権を取得する際には、特許を受ける権利や意匠を受ける権利を、当該従業員から会社に帰属させる必要があります。

 特許を受ける権利や意匠を受ける権利を会社に帰属させる場合、法律上、その対価として、「相当の利益」(特許法35条4項、意匠法15条3項)を当該従業員に対して付与する必要があります。この「相当の利益」は、職務発明規程を定めず、従業員との間で何らの合意もしていなかった場合、従業員との間の協議で話がまとまらないと、特許法35条やこれまでの各種裁判例等に照らし、裁判において会社が支払うべき金額が定められることになります。この金額は自社において当該発明を実施して得た利益や、他社へのライセンスによる収入などから算定されます。例えばメディアでも大きく報じられた青色発光ダイオード訴訟では、一審(東京地判平成16年1月30日判時1852号36頁)で604億3006万円の請求権が原告に認められています(一部請求として200億円の請求を認容。控訴審において約8億円で和解)。ただ、これはあくまで過去の裁判例の1つでしかないことに注意してください。「相当の利益」がどれほどの金額になるかは個別のケースによって異なり、金額を事前に予想することは極めて困難です。

 こうした訴訟を防ぐ上で重要なのが、職務発明規程です。具体的な規程例は、特許庁が中小企業用のひな型として用意している職務発明規程*8)をご参照ください。

*8)特許庁「A株式会社職務発明取扱規程(案)(中小企業用)」(PDF)

 企業が付与する「相当の利益」の内容が不合理なものであるか否かについて判断が求められる場合、特許法35条5項に例示されている下記表内の手続きが適正に行われたかがまず検討されることになります。特許庁が公開中のガイドライン*9)では、それらの手続きが適正と認められる限りは、原則的に使用者と従業員があらかじめ定めた契約や勤務規則、その他の定めが尊重されるとしています 。

*9)特許庁「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業員等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(PDF)

特許法35条5項に例示された手続き

(1)「相当の利益」の内容を決定するための基準*10)策定に際して使用者等と従業員等との間で行われる協議の状況

(2)策定された当該基準の開示の状況

(3)相当の利益の内容の決定について行われる従業員等からの意見聴取の状況等

*10)職務発明規程全体を指すのではなく、特許法35条4項の「相当の利益」の内容を決定するための基準を意味することに留意されたい。

 そのため、職務発明に関するリスクをヘッジする上では「相当の利益」の付与に関連した手続きを適正に行うことが、重要となります。同手続きの履践にあたっては、特許庁のガイドライン*11)をご参照ください。

*11)特許庁「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業員等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(PDF)

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