「コンサルティング3.0」で必要とされるエンジニアの現場力VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力(3)

VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第3回は、「コンサルティング3.0」の時代へ入りつつある中で、なぜエンジニアの力が求められるのかについて論じる。

» 2020年07月08日 09時30分 公開

 あらためて、「コンサルティング力」とはどのような力を意味するのでしょうか。一般的な定義をするなら、「ビジネスの現場における潜在的な課題を発見する力」と「その課題を解決する力」の2つを合わせたものがコンサルティング力です。その「現場」が人事領域であれば人事コンサル、経営領域であれば経営コンサル、IT領域であればITコンサルとなるわけです。

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「コンサルティング3.0」の時代へ

 コンサルティングの世界は、大きく3つの段階を経て今日に至っています。旧来型のコンサルティング、すなわち「コンサル1.0」において求められていたのは、明示された課題を専門的方法で解決する力でした。コンサルタントは、経験豊かな「先生」のような存在として経験値に裏打ちされたアドバイスや課題に対する解決方法を提示していました。まるで経験豊富な「白髪の年配者」が企業を指導するようなイメージのため、「グレイヘアコンサルティング」ともいわれます。

 続く「コンサル2.0」は「ファクトベース期」です。これは、コンサルタントが現場の「ファクト=事実」を検証し、それによって自ら課題を発見していく手法です。コンサル2.0は、おおむねバブル崩壊以降から今日まで続いています。

 近年その萌芽が見られるようになり、今後ニーズが高まっていくと考えられるのが「コンサル3.0」です。この段階のコンサルは「イノベーション創出期」といえます。ファクトベースで課題を発見していくのは2.0と同じですが、その課題を顧客企業のイノベーションにつながるような形で解決していくところがこれまでと大きく異なる点です。

 VUCA時代は「正解」のない時代です。過去の成功体験や経験値に基づいてモノをつくれば売れる時代ではありません。社会や消費者のニーズを探りながら、そのつど「新たな正解」を導き出していかなければならない。その「新たな正解」がすなわちイノベーションです。それを顧客企業とともに実現させる役割が、コンサルタントに求められるようになっているのです。

 コンサル2.0の段階にあるコンサルティングでは、ソリューションやツールを開発し、それを個々の課題に当てはめていく方法が主流でした。いわば、課題解決のための「ブレーン」を担うのがコンサルタントということです。そのソリューションを使って実際に課題を解決していくのは、それぞれの企業の現場で働く社員に委ねられます。つまり、現場社員が課題解決の「手」となるわけです。ブレーンと手が分離しているこの方法では、現場への負荷が高くなる場合が少なくありません。コンサルタントは、現場の人々の日常的な働き方などを把握した上でソリューションを提案しているわけでは必ずしもないからです。

 これはコンサル3.0でも同様です。ブレーンと手が分離しているために、イノベーティブな提案が実際のイノベーションにはつながらない。そんなケースがあり得るのです。この問題の確実な解決法はおそらく一つしかありません。日々現場で働いていて、現場の裏も表もよく知っている立場の人が、課題発見と課題解決のブレーンとなり手にもなる方法です。モノづくりやITの現場で日々働き、現場を熟知しているのは誰か。それはエンジニアに他なりません。

 経験豊富なエンジニアは、現在働いている会社の現場だけでなく、業界内の複数の会社、あるいは異なる業界のやり方を知っていることも増えてきています。クルマの製造現場でいえば、トヨタ式も日産式も知っているエンジニアもいます。その多角的な視点や経験による高い「現場力」が、イノベーションを創出する力となるのです。



 もっとも、現場力だけでコンサルティングが可能になるわけではありません。また、現場力だけでイノベーションを生み出すことができるわけでもありません。コンサル3.0の実現に求められるもの。それは「コラボレーション」です。なぜ、コラボが必要なのか。その理由を次回に説明したいと思います。

筆者プロフィール

株式会社VSN 太田 剛

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大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にVSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。

現在は、VIコンサルティングオフィスの室長として、コンサルティングサービスを促進するとともに、取引先企業の経営層に対する戦略コンサルティングサービスを担当する他、問題解決の育成プログラムの構築から実施を行う。

Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/
(株式会社VSNは、事業ブランドの名称をModis VSNに変更しました)

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