特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

IIoTを巡る覇権争い、正しいプラットフォームの選択に必要な考え方IIoTの課題解決ワンツースリー(5)(2/2 ページ)

» 2020年08月03日 11時00分 公開
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オープンな標準ツールで生産現場に横串を通す

 生産現場は、日々、新たな課題に直面し、改善活動を繰り返している。そのスピード、要求に応えるためには、生産技術がシステムを“手の内化”できる標準ツールが必要である。

 例えば、あんどんシステムの表示に足りない部分があれば、ツールを開いてすぐに画面を修正したり、分析のために新たにセンサーを追加したらそのセンサーで取得する変数を登録したり、アーカイブ設定を行いデータ収集を開始しトレンド表示させたりするなど、こうしたことを現場で行えるようにする必要がある。標準のパッケージ化されたツールならこうした一連の作業が当たり前のように行える。一方で、ブラックボックス化されたシステムでは、柔軟な対応は不可能である。

 また、大手ITベンダーが独自開発したシステムを提案したものの「生産現場のニーズに合わず、導入が進まない」という話もよく聞く。これはコスト面の課題もあるが、生産現場自らが“手の内化”できず、改善アイデアを自らが望むスピードで実現できない点なども課題としてあると考える。

 また“手の内化”とは別の側面で、標準ツールは特定メーカーの色がついておらず、よりオープンであることが望ましいということにも触れておきたい。

 IIoTプラットフォームの根幹をなすのは、デジタルによる縦の接続性である。例えば、PLCとの接続性に関して、特定メーカーのPLCとしか接続しないようなプラットフォームでは、エンドユーザーはプラットフォームによる制約条件を考慮して機械を選択しなければならなくなってしまう。これは本末転倒な状態だ。できるだけオープンに、各社PLCと接続できることが、この層のプラットフォームには不可欠である。

 例えば、筆者の所属するリンクスが取り扱っているCOPA-DATAのzenonでは、300種類以上のPLCドライバを準備している。OPC UAやModbusといった標準プロトコルはもちろんのこと、各社独自プロトコルへの対応も随時進めている(最近ではジェイテクトのTOYOPUCドライバを開発した)。上位システムとの接続性の面では、データベース連携(ODBC接続)や各種ゲートウェイ(Azure IoT Hub、SAP、OPCサーバなど)によるデータ連携も可能である。また、同社は優れた各種APIを用意し(COM、XML、C#、.NET)、外部システムとの連携も可能にしている。こうしたオープンさがエンドユーザーの選択肢を増やすことにつながる。

標準ツールを用いた現実解

 「全てを“手の内化”したい」と力のあるエンドユーザーでは、オープンな標準ツールで生産現場に横串を通すのが、理想の姿だろう(図2)。これにより連携させる機械を自由に選択でき、機械からのデータ収集は決まった形でプラットフォームに集約される。例えば、あんどんやロボットの予兆解析など各種アプリケーション作成も“手の内化”でき、外部のベンダー依存度が下がり、現場に自由度を生み出せる。

photo 図2 オープンな標準ツールによるプラットフォームへの集約(クリックで拡大)出典:リンクス

 ただ、先述したように、エンドユーザーの中には特定のアプリケーションについて「囲い込まれたい」と考えるケースも当然あるだろう。そのようなケースにおいては、予兆解析のサーバだけ分離して存在させ、必要データについては標準ツールによるプラットフォームと連携し集約させるような、ハイブリッドなシステム構築が1つの現実解だろう(図3)。

 予兆解析など外部ノウハウに依存したい部分だけは個別の専用ツールに依存するが、品質や稼働関連データの収集・蓄積、あんどん、KPI管理など自社でコントロールすべき重要アプリケーションは、オープンな標準ツールで実現し“手の内化”する形である。だが、個別の専用ツールの局所的な価値だけにフォーカスし、あれもこれもと個別に外部委託を繰り返し、結果として、図1に示したような、個別最適化された縦割りのシステムの形に戻ってしまうことがないようには注意する必要がある。

photo 図3 標準ツールによるプラットフォームと専用ツールを両立する仕組み(クリックで拡大)出典:リンクス

 なお、プラットフォームの選択に当たり、EdgecrossやFIELD Systemのような新たに登場した共通基盤の上にパートナー各社がアプリケーションを提供するようなプラットフォームは、構成要素間の親和性や処理速度といった面で苦しい弱点を抱えていると筆者は考えている。連載第3回の「IIoTで乱立する専用ツール、統合ソフトウェアが持つ意味」でも述べた通り、IIoTソフトウェアプラットフォームとして進化してきた統合ソフトウェアであるSCADAの方がパフォーマンスやメンテナンス性の面で優れていると見ている。


 今回は、IIoTを巡る覇権争いとエンドユーザーの反応、標準ツールによるプラットフォームの構築の長所について解説した。次回以降は、業界別に、IIoT化のトレンドについて、標準ツールをプラットフォームとして採用した事例を交え、紹介したい。次回は自動車業界について取り上げる。

≫連載「IIoTの課題解決ワンツースリー」の目次


著者紹介:

村上慶

リンクス 代表取締役 村上 慶(むらかみ けい)

1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に国費留学、工学部にてコンピュータサイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE社製品の国内普及に従事し、国内におけるトップシェア製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。



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