インタビュー
» 2020年08月20日 10時00分 公開

製造業マネジメント インタビュー:米国製造業は日本より「古い」? ベンチャーに聞く産業用IoTの普及状況 (1/2)

IIoTの日本国内での普及状況は、海外と比較するとどのように評価できるのか。米国シリコンバレーを拠点にIIoTを始めとしたIoTソリューションの開発、導入サービスなどを提供するMODEでCEOを務める上田学氏に、米国と日本でのIIoTの広まり方の違いなどを尋ねた。

[池谷翼,MONOist]

 近年、IoT(モノのインターネット)を産業用に展開する「IIoT」や、それを活用した工場のスマートファクトリー化の重要性が大きな注目を集めている。工場設備の稼働状況に関するデータをIoT機器で収集し、見える化できれば、設備異常の早期発見などに役立てられる。ただし導入にかかるコストなどが障壁となり、大手や一部の中小メーカーを除いて、国内ではまだ本格的な普及には至っていないように見受けられる。

 こうしたIIoTの国内の普及状況は海外と比較すると、相対的にどのような段階にあるのだろうか。本稿では、米国シリコンバレーを拠点として、IIoTをはじめとしたIoTソリューションの開発、導入サービスなどを提供するベンチャー企業・MODE CEOの上田学氏に、米国と日本でのIIoTの広まり方の違いなどについて聞いた。

MODEの上田学氏[出典]MODE MODEの上田学氏[出典]MODE

米国製造業の“古い体質”とは

MONOist まずはMODEの沿革と事業概要を教えてください。

上田学氏(以下、上田氏) 2014年にYahoo!出身の共同創業者イーサン・カンと米国西部のシリコンバレーでMODEを創業した。創業以前には、私はYahoo!やGoogle、Twitterの米国本社でエンジニア、エンジニアリングマネジメントの担当者として従事していて、Googleでは主にGoogle Mapsの開発を担っていた。

 MODEは主に、独自開発のIoTプラットフォームなどを駆使して現実世界のデータ収集を実現するソリューションを企業向けに提供している。顧客には製造業も多く、特に、ハードウェアの生産や開発を事業の中核としていたが、ソフトウェア重視のビジネスモデルへと転換を図りたいという相談をよく受ける。そうした顧客にIoT分野の開発支援サービスも行っており、日本の製造業では、パナソニックのインダストリアルソリューションズ社や、スズキの新規プロジェクトなどを受託した実績がある。

 なお、MODEの本拠地は米国だが、現在では東京にもオフィスを開設して事業展開を進めている。

MONOist 現在、米国の製造業界において、IIoTはどのような広まりを見せているか教えてください。

上田氏 あらかじめ言っておくが、「米国」とひとくくりにして語ることは本来は難しい。当社は米国西部に位置するシリコンバレーに拠点を構えているが、米国製造業の中心地は中部〜東部にあるシカゴ市やデトロイト市などだ。これらの地域では文化的なものが全く異なる。シリコンバレーだけを取り上げて、カルフォルニア州を論じることができないのと同じだ。

 その上であえて述べるが、一言で言えば、普及状況に日米間で大きな違いはないと思う。米国と聞くとITなど先端テクノロジーの分野で先行しているイメージがあるかもしれないが、米国の製造業は古い体質の企業が多い。

 米国では2014年辺りに大きなIoTのブームが到来し、当時はスマートスピーカーなどIoT機器を活用したスマートホーム構想が盛り上がりを見せた。だが、スマートスピーカー自体はその後も残ったものの、ブーム自体は1、2年程度で収束してしまう。その後、IoT機器を家庭内で使うのではなく公共の場所で使う手法に注目が集まり、第2波のブームが到来した。これが現在のIIoTの動向につながっている。

 こうしたテクノロジーのブームが到来する時期は日本などと比べると、米国の方が2年ほど早い。IIoTのブームも一過性ではなく着実に大きな波となりつつあり、定着期に入っている。ただ、爆発的な広まりを見せているわけではない。ようやく故障の予測検知などの分野で使われ始めた程度で、IIoTを活用して生産力を向上させるといった段階には至っていない。

MONOist 米国製造業の古い体質とはどういうことでしょうか。

上田氏 まず工場のIT化に対して慎重だ。米国のメーカーは新しいテクノロジーに対して必死にキャッチアップしていくという姿勢は乏しい。彼らはROI(投資対効果)を非常に重視する。つまり導入後、何年かで投資コストを確実にリターンとして回収できるとあらかじめ見込めなければ、導入を検討するどころかPoC(概念実証)にも至らない。彼らにとってPoCは確実なROIが見込めると確信し、ほぼ確実に設備導入を行うと決めた上で、念のための効果検証として実施する意味合いが強い。このため、PoC後の導入はスムーズに進むようだ。

 また、米国は国土が広いため、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以前から営業はオンラインツールで行うことが比較的当たり前だった。ただ、オンラインツール上でIoT系のシステム導入を提案すると「実際に工場にまでIoTツールを持ってきてもらわないと信用できない」と断られる。この点は日本も共通するところがあると思う。

MONOist 総じて、工場のスマート化にはあまり積極的ではないのでしょうか。

上田氏 あくまで一般的な話だが、米国でも製薬や食品といった業界の大手企業を中心にIIoTの普及は進みつつある。ソフトウェアドリブン、ソフトウェアセントリック(中心)といった考えの基、IIoTを活用した業務改革、事業改革を推進したがる企業は多い。

 とはいえ、IIoTシステムの構築は大規模なものだと数百万ドルレベルの金額がかかる。また一口に工場といってもその様態は千差万別で、ある工場向けに作ったシステムを別の工場にそのまま導入するわけにはいかない。システムのカスタマイズには手間がかかり、コストもかさむ。中小メーカーの工場が個別にシステムを導入するのはコスト的に困難だ。

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