デジタルサプライチェーンツインを成すサプライチェーンモデルとデジタル基盤とは製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(5)(3/3 ページ)

» 2020年10月07日 11時00分 公開
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デジタルサプライチェーンツインに求められるデジタル基盤の要件

 E2Eサプライチェーンモデルは、デジタル空間にサプライチェーンを再現するためのデータやデータのつながり、データ取得タイミングを定義しており、デジタルサプライチェーンツインの実現に向けた準備段階である。実際に定義したデータをデジタル空間に再現し、可視化、分析、計画、意思決定につなげていくためには、大まかに分けて3つの要件を満たすデジタル基盤が必要である。

 1つ目は、「個別業務領域あるいは自社グループ企業を超えてデータを共有し再活用できる」ことである。

 これまでのITシステムの多くは、個別業務を効率化する視点を重視し、業務や部門ごとにバラバラに構築され、データを全体で共有するという点は重視されていなかった。業務上必要となるデータの連携は、各システム同士をEDI(Electronic Data Interchange)でつなぐか、人間が介在しExcelや電子メールを活用しながらつないでいる。あくまで受注、発注、入荷、出荷などの取引に必要となる最低限のデータの連携が中心であり、全体を見渡した判断、意思決定に必要なデータの共有とはならない。

 つまり、E2Eサプライチェーン全体でデータを共有し、活用していくという発想での新しい基盤が必要である。実現に当たっては、既存のシステムを大きく改変したり、入れ替えたりするとコストも時間もかかるため、クラウドサービスを活用するということも念頭に置いた方がよい。既存システムの上に個別領域あるいは自社グループ企業を超えてつなぐことができる新しい基盤を作り、各既存システムと連携しながら、共有するイメージである(図3)。

図3 図3 E2Eサプライチェーン全体でデータを共有する基盤(クリックで拡大)

 2つ目は、「必要なアプリケーションや最新デジタルテクノロジーを、組み合わせて利用できる」ことである。

 現在、最新デジタルテクノロジーを活用した優れたサービスやアプリケーションソフトなどが多く存在し、かつ目まぐるしく新しいものが生みだされている。加えて、API(Application Programing Interface)エコノミーに代表されるように、各サービスやアプリケーションをつなぎ合わせ、新たな価値を生み出そうという動きが活発である。

 SCMは大きく「実行」「計画」「戦略」の3つの領域に分かれ(連載第1回)、各領域で必要となる機能は大きく異なる。また、各領域を分断することなく、連携していくことが求められる。その中で、必要な機能を自前でイチから作ることは、コストやスピードの面において非効率であり、優れたサービスやアプリケーションソフトを有効活用し、同じ基盤上で組み合わせて利用するという前提が望ましい。また、基盤上でAPIを公開することによって、自社のサービスを他社(サプライヤーなど)に簡単に利用してもらうことができ、拡張性にも優れた基盤とすることができる。

 3つ目は、「徐々に拡張できる」ことである。

 サプライチェーン全体でのデジタルツインの実現が理想ではあるが、現実的に一気に進めることは難しく、小さく始め徐々に拡張していくステップが必要である。よって、デジタル基盤もデータや必要なサービスやアプリケーションを徐々に拡張できるものでなければならない。小さく始めていく中で個別のデジタル基盤を作り、結果的に幾つものデジタル基盤が相互に連携されていない状態とならないように注意が必要である。最新テクノロジーを活用した新しいレガシーシステムとなったら本末転倒である。

 要件を満たすデジタル基盤は、サプライチェーンのデジタル化を支える基盤として既にサービス提供されているものもある。自社で構築するか、既にあるサービスを利用するかは、自社の優位性の実現度やコスト効率性などから判断が必要である。



 最終回となる次回は、デジタルサプライチェーンツインおよびDXを実現する上での課題について、組織と人材の観点から紹介する。

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筆者プロフィール

宍戸徹哉(ししど てつや) クニエ シニアマネージャー

大手国内システムインテグレーターにてSCM関連システム構築に従事し現職。ハイテク・エレクトロニクス、自動車、ヘルスケア、非鉄金属、建設、化学、製薬業界など、サプライチェーン分野のコンサルティングに従事。

主に、SCM/S&OP業務改革、組織改革、ITを活用した改革構想および導入を担当している。

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筆者プロフィール

笹川亮平(ささかわ りょうへい) クニエ マネージングディレクター

ハイテク機器、自動車など組み立て系、プロセス系製造業の企画構想から定着化まで生産管理、在庫管理、需給管理を中心としたSCM/S&OP業務改革、ERP/SCP構想策定および導入コンサルティングに従事している。

編著に「“数"の管理から“利益"の管理へ S&OPで儲かるSCMを創る!」がある。

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