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» 2020年10月14日 11時00分 公開

宇宙開発:H3ロケットの完成が1年延期に、エンジン開発の「魔物」はどこに潜んでいたのか (3/4)

[大塚実,MONOist]

土壇場で発生した2つの深刻な問題

 第1段エンジンへのエキスパンダーブリードの適用は、H-IIA初号機打ち上げ直後の2002年に検討が開始された。その後、「LE-X」として要素技術の実証を先行して進め、開発リスクの低減を目指した。計算機の高性能化もあり、LE-7Aの時代に比べて、数値解析によるシミュレーションをより積極的に活用したことも大きな特徴である。

 燃焼室とターボポンプの単体試験を行った後、2017年4月からは、両者を統合したエンジンの燃焼試験が始まった。まずは「実機型」と呼ばれる試作エンジンにより、延べ5台を使った燃焼試験を実施。続いて、その結果を設計にフィードバックした「認定型」(フライトモデルに相当)の燃焼試験が、2020年2月より行われていた(表2)。

回数 試験日 試験時間(秒) 燃焼圧力(MPa) FTP回転数(rpm) OTP回転数(rpm) 結果
第1回 2020/2/13 101.4 9.39 3万9992 1万6360 自動停止
第2回 2020/2/21 95.0 10.80 4万1499 1万7332
第3回 2020/3/31 100.0 10.60 4万0910 1万7355
第4回 2020/4/7 6.6 - - - 手動停止
第5回 2020/4/17 210.0 10.60 4万1003 1万7389
第6回 2020/4/25 120.1 10.50 4万0197 1万7235 自動停止
第7回 2020/4/30 240.0 10.59 4万0280 1万7327
第8回 2020/5/26 225.5 10.87 4万0990 1万7261 自動停止
表2 認定型エンジンの燃焼試験

 今回、問題が発生したのは、この認定型エンジンの8回目の燃焼試験である。終了後の内部点検において、以下の2つの事象が確認されたという。

  1. 液体水素ターボポンプ(FTP)のタービン動翼が破損(76枚中の2枚)
  2. 燃焼室の内壁に割れ目が14カ所発生(最大で幅0.5mm、長さ1cm程度)

 上記1.の問題は、共振による金属疲労が原因と推測されている。燃焼試験は毎回異なる条件で実施しているのだが、詳細な解析の結果、6回目までの試験で共振条件に合致していた可能性があり、ここで疲労が蓄積。そして6回目以降の試験で、共振による疲労が進行した可能性があることが分かった。

FTPで発生した問題 FTPで発生した問題。金属疲労により、タービンの第2段動翼と呼ばれる場所が破損した(クリックで拡大) 出典:JAXA

 続く2.の問題は、燃焼室内壁が設計値以上に高温化したことが原因と推定された。燃焼ガスは約3000℃という高温になるが、今回の8回目の試験は、意図的に高めの温度で実施していたという。それでも問題がないように設計していたものの、想定よりも温度が上がって内壁が変形し、冷却溝まで達する穴が開いてしまった。

燃焼室で発生した問題 燃焼室で発生した問題。内壁が変形した結果、凸部に熱が集中、溶損して板厚が低下した(クリックで拡大) 出典:JAXA

 今回、通常より高い温度で燃焼試験を行ったのは、量産時の製造誤差を考慮してのことだ。部品にはそれぞれ、必ず誤差がある。精度が非常に高ければ、全てのエンジンが同じように燃焼するだろうが、それだと製造コストが跳ね上がってしまう。コストダウンのためには、ある程度の誤差を許容する設計にする必要があるわけだ。

 噴射器(インジェクタ)や冷却溝の製造誤差により、燃焼室内壁の温度は変動する。今回の燃焼条件は、バラツキが最も大きい場合を想定していたが、事前の予想を超える温度分布になっていた可能性がある。ただし、起動・停止時の一時的な冷却不足の可能性もあり、高温化の要因の特定はできていない。

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