特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

不確実性の時代に製造業が将来を見通すための「ビジネスインサイト」とはサブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(6)(2/3 ページ)

» 2020年10月20日 10時00分 公開

どのようなデータをどのように収集してインサイトを分析するのか

 IoT(モノのインターネット)が次第に浸透していく中で、ライセンシングソリューションの目覚ましい進化によって、顧客のソフトウェアから利用状況を容易に収集できるようになり、今までにないビジネスインサイトを分析できる時代になった。利用状況はインターネットを経由してオンラインで収集するだけでなく、オフライン環境においても利用状況を収集する手段を可能にしている。

 顧客がどのパッケージングの製品を好み、どのライセンスを入手して、いつどのような機能が使われているのか、どれくらいの時間ソフトウェアは起動しているのか、起動頻度や利用ユーザー数、また地理情報など、ソフトウェアの利用状況データから収集する。ライセンスの権利情報からはアクティベーション数やその頻度、残りのライセンス数、販売経路など、ビジネスに関する情報も得られる。

イメージ ※図はイメージです

 こうした情報をベースに、現在のライセンス数が顧客にとって十分なのか、それとも不足しているのか、将来的にライセンスが不足する可能性はないのか、顧客の利用状況とライセンスの権利情報を分析すれば一目瞭然だ。契約終了のタイミングや更新時期、アップセル、クロスセルの可能性を利用状況から分析し、判断することができるようになる。顧客の動向からサブスクリプション解約の可能性を把握して、適切なタイミングに営業的なアプローチを行うことが効果的だ。

 また、製品の情報として、どのパッケージが売れていて、機能とライセンスモデルの組み合わせの数がどれくらい利用されているのか、それらがどれくらいの期間の利用があるのか、顧客のデータをもとに市場動向を把握することによって、製品戦略を組み立てやすくなる。新たに導入したビジネスモデルやパッケージングが、どのような実績を収めたかを可視化して検証し、ドラスチックに方向性を変換することも可能だろう。ビジネスインサイトによって得られた示唆から、新たな製品戦略が売上を増加させることに期待が持てる。

 そして、強力な販売体制を敷く限りは代理店についても分析を行うべきだろう。配下の顧客の情報や保有しているライセンスの在庫情報、代理店別の販売傾向や展開進捗のスピードを比較して、販売のテコ入れや販促のバランスを検討できる。今のパートナーシップに何が足りないか、従来の担当窓口だけでなく客観的なデータでの分析が可能になるわけだ。

 顧客のソフトウェアの利用データ、ライセンスの消費状況、ライセンスの権利情報など収益に関連する生データは大量に創出されている。実は製造業にとって、取るに足らないと思っていたソフトウェアのデータが、将来の意思決定に関わる重要な情報として可視化できるとは、全くもって想像すらされていなかった。こうした情報を効率的あるいは必然的に蓄積し、洗練されたツールで可視化できれば、経営幹部の戦略的意思決定に効果的に働くことは間違いない。

データを活用できている企業はわずか9%という厳しい現実

 最近のプロダクトマネジメントに関する調査結果では、自分たちのチームがデータ駆動型であると考えているプロダクトマネジャーはわずか9%で、全体の3分の1のプロダクトマネジャーが、意思決定のためにデータを活用できていない、ということが明らかになっている。データが時代をつくるといわれて久しいが、いまだ勘や個人的思い込みにとらわれている企業は少なくない。製造業においてもデータ分析に注力して意思決定に役立てられている企業はそう多くはない。

イメージ ※図はイメージです

 データ分析が広まらない理由の一つが、時間とコストの問題だ。バックオフィスからデータを抽出して統合し、分析できる状態にまでデータを整備して可視化させるまでに多くのプロセスが必要となる。データ分析の人員確保も容易ではなく、専門的なコンサルタントからのアドバイスも受ける必要があるだろう。そして、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入しても、期待との乖離(かいり)や想定以上にコストが必要となったということも耳にする。それくらいにデータ分析というプロジェクトは難易度が高く、十分な予算を確保できる一部の企業のものになりがちだ。

 そのため、ソフトウェアビジネスにおいて、収益化に向けたビジネスインサイトが得られるような分析を行うには、あらかじめ格納された収益化に関連する情報から、複雑なデータ変換に対応して可視化を実現させる必要がある。複雑なプロセスを必要としていた作業を、一元化されたツールで、なおかつ利用者によるセルフサービスで可視化を実現させる仕組みが必要だ。イチからデータを集めてスクラッチで分析するには途方もない時間と労力を必要とするが、ライセンシングバックオフィスに蓄積されたデータを、ビジネスに関する知見を集約した分析が実現できれば、本来必要としていた多くのプロセスをスキップできる。製造業にとっては、そうしたソフトウェアビジネスに特化した分析ツールの選定が決め手となるだろう。

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