「モノづくりの“コンテンツ”をどう生かすか」製造業のDXに必要な考え方スマートファクトリー(1/2 ページ)

インテルは2020年9月28〜29日、製造業向けのオンラインユーザーイベント「インテル 製造フォーラム2020」を開催した。本稿では「製造業のDX」をテーマとし、日本の製造業が目指すべきDX(デジタルトランスフォーメーション)の姿とは何かについて語ったパネルディスカッションの様子をお伝えする。

» 2020年10月21日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 インテルは2020年9月28〜29日、製造業向けのオンラインユーザーイベント「インテル 製造フォーラム2020」を開催した。本稿では「製造業のDX」をテーマとし、日本の製造業が目指すべきDX(デジタルトランスフォーメーション)の姿とは何かについて語ったパネルディスカッションの様子をお伝えする。

 パネルディスカッションは、東京大学 名誉教授の佐藤知正氏、デンソー 経営役員 生産革新センター長の山崎康彦氏、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ロボット・AI部 主査の和佐田健二氏をパネリストとし、モデレーターはFAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏が務めた。

photo パネルディスカッションの参加者。右からデンソー 経営役員 生産革新センター長の山崎康彦氏、NEDO ロボット・AI部 主査の和佐田健二氏、東京大学 名誉教授の佐藤知正氏、FAプロダクツ 代表取締社長の天野眞也氏(クリックで拡大)出典:インテル

日本の製造業にとってのDX

 DXはさまざまな領域で注目を集めているが、日本の製造業にとってどういう意味があるのだろうか。東京大学の佐藤氏は情報処理の流れとしてDXの意義を読み解く。「1960年代は情報処理は特定の問題を解くというものだった。1980年代以降は知識処理を行えるようになった。そして、最近は深層学習による分析などに大きな注目が集まっているが、今まではサイバー空間だけで完結する取り組みだった。これからはサイバーとフィジカルが組み合わせるサイバーフィジカルシステムになる。実世界を組み込んだ形となるのが大きな違いだ」と佐藤氏は考えを述べる。

 こうした流れは日本企業にとっては追い風だと佐藤氏は訴える。「米国は1980年代に情報処理の世界で勝負をするということを目指し政策などでも後押しをした。その象徴的な結果がGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)である。そして、日本はそのフィールドでは勝てなかった。しかし、サイバーフィジカルシステムになると日本の製造業にもチャンスが生まれてくる。サイバーフィジカルシステムはフィジカル側のノウハウが必要になってくるからだ。フィジカル側からサイバー側に攻め上がる可能性が出てくる。失われた30年だといわれているが、これからの30年はまた違った形になると見ている」(佐藤氏)。

 一方、NEDOの和佐田氏は、「2020年版ものづくり白書」で取り上げられた「ダイナミック・ケイパビリティ」を紹介し、先行きを予測するのが難しいからこそ、デジタル化により多様性を確保する重要性を訴える。「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)は、与えられた経営資源をより効率的に利用して利益を最大化しようとする動きで日本企業はこちらの力が強かった。しかし、状況の変化に応じて企業内外の資源を再構成し自己を変革するダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)についてはどちらかといえば弱かった。ダイナミック・ケイパビリティを実現するためには多様性を重視したデジタル化の取り組みが重要になる」と和佐田氏は語っている。

デンソーが取り組む2つのDX

 デンソーの山崎氏は、デンソーにおける「製造現場」と「エンジニアリングチェーン」の2つのDXについて紹介した。山崎氏は「まずはITではなくモノづくりの専門家を集め『どういう姿が理想か』を議論しコンセプトを作ってから進めた」と取り組みの開始について語る。

 「現場の熟練技能者による改善活動は何に基づいているのかを現場に入り込んで手作業で解き明かしていった。これらの知見を生かす形でシステムやアプリケーションを構築し、現場での実装が進み改善活動につなげている。例えば、生産設備の自動化ラインは自動化されているといっても微妙にサイクルタイムが変化し出力が落ちることがあるが、モノの流れが全て見える化できていると、問題点を簡単に見つけることができる。こうした事例が何十、何百と生まれている」と成果について語っている。

 スマート工場化では成果が出せずに苦しんでいる企業も多いが、デンソーの場合は、現場で使うアプリをどう作るかという点と、これらを支える基幹システムがポイントになったという。「最初に構築した基幹システムがうまくいかなかった。目指したのは現場で使いやすくて人とともに進化するシステムで、そのためにはシステムの中身を自分たちが分かることが重要となる。そこで一度作ったシステムをやり直し、オープンソースベースで作り直した。それをグループ標準としたことで、具体的な動きを作れるようになった。現場の技術者が欲しい機能をそれぞれが作って使える環境ができたことで、改善サイクルもさらに進められるようになった」と山崎氏は述べている。

 さらに山崎氏は、デジタル技術を活用したスマート工場の理想像について「最終的にはリアルワールドの全ての情報をデジタル化でき、仮想空間で自由な改善ができるようにすることだ。これが可能になれば圧倒的な競争力を作ることができる。データの整備やシステムの改善など足りない部分は多くあるが、競争力につながるデジタル化を進めていきたい」と語っている。

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