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» 2020年11月02日 10時00分 公開

製造業DX推進のカギを握る3D設計(4):設計の3DデジタルツインをDXの原動力に変える (1/2)

日本の製造業が不確実性の高まる時代を生き抜いていくためには、ITを活用した企業の大変革、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への取り組みが不可欠だ。本連載では「製造業DX推進のカギを握る3D設計」をテーマに、製造業が進むべき道を提示する。第4回は一段高い視点から、製造、サービス、営業に至るまでの「3Dデジタルツイン」の活用によるDXの実現について解説する。

[鳥谷浩志/ラティス・テクノロジー 代表取締役社長,MONOist]

 世界の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者数は、2020年9月末時点で100万人を超えた。日本における同年9月末のCOVID-19による100万人当たりの死者数は12人、米国は620人だという。都市封鎖をしなかった日本は、経済への痛手も相対的には小さかった。一方、主要先進国の中で最悪なのがGDP比で250%を超える国の借金だ。少子高齢化の進む中、経済や災害対応でその金額は増える一方である。少しでも次世代への負担を下げることを現世代の責務とするなら、生産性を向上させ、利益を上げ、国に貢献すべきだ。

 生産性を上げるために、効果的な手段の1つが設計で作成した“3D設計情報の価値を最大化すること”である。それは製造業のビジネスモデルの変革を生み出す可能性も秘めている。今回は、一段高い視点から、製造、サービス、営業に至るまでの「3Dデジタルツイン」の活用によるデジタルトランスフォーメーションDX)の実現について述べる。

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DXの起点、“図面レス”に挑戦する

 連載第2回では日本の製造業の実情として、設計と現場の間でデジタル情報の分断が起こっていること、それがDXの妨げになっていることを説明した。

 まず、最大のボトルネックが3D設計の結果を紙図面化することである。それでは、その処方箋となる“図面レス”を支援する3Dソリューションはどのレベルまできているのだろうか。ラティス・テクノロジーが開発する「XVL Web3D」という技術を例に紹介しよう。これは、設計段階において3D CADで作成した3Dデジタルツインに、モノづくりに必要な情報を付加した上で、スマートフォンやタブレット端末上で参照可能にする技術である。3D図面に関しては、以下のような要件で開発した。

  1. CADで定義した寸法や注記を3D形状情報とともに現場に正確に伝えること
  2. 低スペックPCやタブレット端末で図面同等の情報を3D形状上に表示可能にすること
  3. 現場で見たい情報を、現場で手軽に得られるようにすること

 図1をクリックすると、実際の3D組立図を体験できる。PCでも、タブレット端末でも3D CADからの寸法情報を表示することもできるし、必要ならば、断面を表示し、寸法の計測も可能だ。これを関係者に流通させれば、図面作成の手間をなくすことができる。必要な情報は現場で計測できるため、CAD寸法や注記情報を設定するという作業量は、設計ルールを適切に設定することで最小化できる。設計が3Dデジタルツインを作成すれば、“図面”というアナログモノづくりからの脱却への第一関門を突破できる。

タブレット3Dで、図面レスを推進 図1 タブレット3Dで、図面レスを推進(画像クリックでデモ表示)

3Dデジタルツインを作業指示に適用する

 連載第3回では「デジタル擦り合わせ」によって、製造性まで意識した完成度の高い3Dデジタルツインを作り上げる方法を紹介した。

 この過程で、3Dデジタルツインの中に組立手順や製造部品表の情報も入れることもできる。この情報から作業指示書を自動作成することも可能だ。文字による注記や画像による注記、組み付け方向の指示、3Dアニメーションによる分かりやすい表示、組付工程や利用する部品名称/治工具/注意点と3D形状との連動など、作業指示で必要とされる情報もカバーされている。図2をクリックすると、PCやタブレット端末上で3Dアニメーション付きの組立指示書を体験できる。

タブレット3Dで、図面レスを推進 図2 タブレット3Dで、図面レスを推進(画像クリックでデモ表示)

 ここで、注目すべき点は、作業指示に必要な全ての情報が3Dモデル内に定義されているということだ。設計で作成した3Dデジタルツインが、生産技術(生技)や製造で情報を付加することで進化し、その情報が組織の間を流れている。DXの本質は“情報の流れを作ること”である。まさに、それが実現されている。これをVR(仮想現実)表示したり、タブレット端末上に映し出された現物上にAR(拡張現実)表示したりする技術も開発されており、製造現場では前倒しで段取りを開始できる。この前倒しが進めば進むほど、DXの進展度が上がっていく。

5Gの時代に3Dデジタルツインを活用する

 「5G(第5世代移動通信システム)」がいよいよ実用機を迎えようとしている。超高速で大容量、低遅延を掲げるモバイル通信規格5Gを利用すれば、通信容量が一桁大きくなる。ネット回線が太くなれば、サーバとクライアント間の通信を最適化でき、大容量の3Dモデルすらタブレット端末上で素早く表示できる。例えば、先に紹介したXVL Web3D技術を使えば、既にクルマ1台分の3Dモデルをタブレット端末上に表示可能だ(動画1)。

動画1 5G&新XVL Web3D時代で可能になること

 サーバから見たい部分だけを高速転送することで、メモリの少ないタブレット端末でも、クルマ全体から配線だけの表示に素早く切り替え、必要な保守手順を3Dで見ることもできる。このことはサービス分野のビジネスモデル変革の可能性を示唆している。

 COVID-19による緊急事態宣言の期間、機械が故障した際、「サービスマンは来なくてよい」「自分で修理するので手順だけ教えてくれ」という場面が多数あったという。分かりやすい3Dマニュアルをエンドユーザーに提示することは、これに対応する有効な手段となる。

 既に、3Dマニュアルを製品にバンドルすることで、サービスの付加価値を上げている企業もある。その先に来るのが、サービス用の3DデジタルツインとIoT(モノのインターネット)機器の連携である。現物の故障情報を3Dモデル上に表示したり、未然に故障を防ぐよう注意を促したりすることも可能になる。製品全体の3Dデジタルツインが、いつでもどこでも誰でもタブレット端末から参照できるなら、サービスビジネスの変革の可能性は格段に広がる。

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