「手術で失った声を取り戻す」、東大院生たちが全力で挑む医療系デバイス開発モノづくりスタートアップ開発物語(5)(1/3 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第5回は喉摘者向けにハンズフリーの発声支援デバイスを開発する、東大院生らのグループSyrinxを紹介。数々の開発課題に悩む彼らだが、研究を通じて人間の声に関するある知見を得たことが突破口となる。

» 2020年11月05日 14時00分 公開

 オープン6年目を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走するスタートアップやクリエイターを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第5回は声を失った人たちに「その人の、元の声に近い発声」を可能にするデバイス開発に取り組むSyrinx(サイリンクス)のリーダー竹内雅樹氏に、デバイス開発の経緯やビジネスへの思いを聞いた。Syrinxは開発物の製品化を目指しており、その際の有力な選択肢として起業を視野に入れている。

Syrinxのリーダーである竹内雅樹氏

人工喉頭機器を不便に感じる喉摘者は少なくない

 人間は、喉仏にある声帯を気管からの呼気で震わせ、その音を口腔内で共鳴させることで声を出している。このため、喉頭がんなどの手術で、声帯を含む喉頭を摘出された人(喉摘者)は声が出なくなってしまう。

 喉摘者向けのサービスや製品を提供しているアトスメディカルは、世界中にいる喉摘者の人数を10万人と推計する。また、いくつかの学術論文では、国内の喉摘者を約2〜3万人と見積もっており、厚生労働省の統計では毎年約1000人が喉頭摘出手術を行っているという。

 「声を取り戻したい」と願う喉摘者は多い。実際に、声帯の代わりに食道を震わせる「食道発声法」の他、気管と食道をつなげる手術を受けると可能になる発声方法などを習得する人もいる。ただ、これらの技術は習得が容易ではなく、途中で諦めてしまう人も多い。電動式の人工喉頭機器(EL)を使うという手もある。しかし、使用時に不便に感じる人も少なくない。このため結局、ELを持っていてもコミュニケーションを控える喉摘者も多いという。

 こうした課題を乗り越え、喉摘者の「声を取り戻す」手助けをしようとしているのが、東京大学大学院生らの4人グループ「Syrinx」(サイリンクス)だ。

Syrinxが開発したデバイスの外観*出典:Syrinx[クリックして拡大]

大学1年生時のワークショップ経験が研究の原点に

――声を取り戻すデバイスを開発するきっかけは何だったのですか。

竹内雅樹氏(以下、竹内氏) 2019年7月中旬ごろに、声帯摘出で声を失った人が練習を繰り返して、声が出せるようになるという過程を撮った動画をYouTubeで見ました。当時は、慶応義塾大学理工学部を卒業し、東京大学大学院に入学してまだ3カ月。研究テーマは未定でしたが、動画を見たときに、「これを研究しよう」と思いました。

 実は、決意を固めるきっかけになった出来事があります。大学1年生のときに参加した、あるグループでのワークショップの経験です。そこでは、声帯摘出を受ける患者の声を術前に録音しておき、術後のコミュニケーション時に役立てるという活動をしていました。その経験が自分にとって意義深くて印象的だったので、動画を見たときに「自分の針路が決まった」と直感しました。

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