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» 2020年11月06日 06時00分 公開

モータースポーツ超入門(2):F1にこだわり続けたホンダ、なぜ参戦終了を決めたのか (1/2)

ホンダの参戦終了は世界中のファンはもとより、F1関係者にも大きなショックを与えた。ただ、ホンダの経営判断を理解するには、自動車産業を取り巻く環境変化や、F1そのものの在り方についても配慮しなければならないのではないか。

[福岡雄洋,MONOist]

 ホンダが2021年シーズンをもって世界最高峰のモータースポーツ、F1(フォーミュラ・ワン)への参戦終了を決めた。ホンダのF1での進退については以前からうわさになっており、2020年10月2日、ホンダがモータースポーツ活動に関する緊急記者会見を行うと通知してきたときには「ついに決めたか」と思ったほどだ。

 ホンダのF1活動としては4度目の撤退、そしてホンダ 社長の八郷隆弘氏の「再参戦は考えていない」という表明に、世界中のホンダファンの心には悲しみや嘆き、怒り、絶望……さまざまな感情が渦巻いた。ホンダの参戦終了は世界中のファンはもとより、F1関係者にも大きなショックを与えた。

 ただ、ホンダの経営判断を理解するには、自動車産業を取り巻く環境変化や、F1そのものの在り方についても配慮しなければならないのではないか。ホンダのF1参戦終了を単なる感情論だけで終わらせないためにも。

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ホンダほどF1に拘った会社はなかった

 筆者はホンダの第2期F1活動(1983〜1992年)を見てクルマが好きになった。それだけにモータースポーツファンの1人としてホンダのF1参戦終了は本当に辛く、残念に思っている。

 第一報を聞いた時には「ついに決めたか」と冷静に思う一方で、ふつふつと怒りの感情が込み上げてくるのも自覚した。これまでF1でのホンダの取り組みを応援し続けてきたからこそ、「また撤退か」「ファンを裏切るな」「宗一郎さんが泣くぞ」「業績が悪いとすぐ止める」など、言葉するのがはばかれるぐらいの感情を抱いたのが正直なところだ。「何度、復帰と撤退を繰り返せば気が済むんだ。今回は腰を据えてやるんじゃなかったのか」とも思った。ホンダファンを自負する筆者も、しばらく怒りが収まらなかった。

 ホンダがF1参戦終了を発表して1カ月が経過し、この間も世界中でさまざまな論評がなされてきた。もちろん見方はさまざまだが、筆者がいま思うようになったのは「ホンダほどF1にこだわった会社はなかったのではないか」ということだ。

今シーズンは2回の優勝を含め11戦連続で表彰台を獲得している(第13戦エミリア・ロマーニャグランプリ終了時点)。第4期F1活動は2015年の復帰からわずか6年で幕を下ろすことになる(クリックして拡大) 出典:ホンダ

 ホンダは確かに復帰と撤退を繰り返してはいるものの、四輪車で世界選手権を戦うステージは一貫してF1だった。かつてトヨタ自動車も欧州市場でのマーケティング活動の強化をにらみF1に参戦したが、1勝も上げることなくリーマンショックによる世界経済の低迷を理由に2009年で撤退。現在は耐久レースとラリーに軸足を置いている。

 ホンダが年間数百億円にも及ぶ参戦費用が必要になるにもかかわらずF1挑戦を続けてきたのは、世界最高峰の「走る実験室」を使って技術開発とエンジニア育成を進めるために他ならない。F1に参戦しているからこそホンダという会社を選び入社した技術者も少なくなく、強い憧れと志をもつエンジニアが今のF1活動を支えている。

 F1に限った話ではないが、モータースポーツへの挑戦は企業のブランディングやマーケティング活動にも直結する。私事で恐縮だが、「F1で活躍するホンダが好きだから」という理由でクルマの購入を決めたことがある。家庭の事情もあってミニバンを選ばざるを得なかったが、F1をやっているんだからミニバンでも走って楽しいクルマに仕上げているのではないか……と期待して「オデッセイ アブソルート」を買った。実際、ミニバンにしては楽しいカーライフを送ることができた。

 ホンダがF1にこだわり続けたのは、こうしたさまざまな効果や、ホンダというブランドや企業文化がF1活動で育まれてきたことを理解しているからに他ならないと思う。そのホンダが参戦終了を決断した背景にはもちろん、ホンダが説明するようにカーボンニュートラルの会社をめざすために経営資源を集中させる必要があるのだろう。ただ、それだけではないように見える。

過去のF1で、ホンダは車体もエンジンも自社で製作して参戦するフルワークス体制、エンジンを供給するエンジンサプライヤーとして活躍。第4期はエネルギー回生システムを搭載したパワーユニット(PU)を供給するPUサプライヤーとして参戦している(クリックして拡大)
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