米国病院は新型コロナの院内クラスター対策にDXを導入、働き方改革も進める海外医療技術トレンド(66)(1/3 ページ)

前回は米国規制当局のDX動向を取り上げたが、米国内の医療業界におけるDXの取り組みは最前線でも加速している。

» 2020年12月11日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 前回は米国規制当局のDX(デジタルトランスフォーメーション)動向を取り上げたが、DXの取り組みは医療の最前線でも加速している。

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COVID-19接触追跡業務の改善は「働き方改革」の起点

 米国では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応業務の標準化・効率化が、公衆衛生機関のみならず、病院・診療所で働く医療従事者(HCP:Health Care Professional)の働き方改革の最重要課題となっている。

 本連載第59回で、カリフォルニア州サンフランシスコ市におけるコンタクトトレーシング(接触追跡)プログラム(関連情報)を取り上げたが、慢性的な医療従事者不足が続く米国の医療・介護現場では、職業安全衛生法(OSHA:Occupational Safety and Health Act)の観点から、COVID-19対応業務に関わる医療従事者の労働条件改善も急務となっている(関連情報)。

 米国の主要医療機関の間では、COVID-19の第1波が押し寄せた頃から、紙と人手に依存してきた接触追跡業務に関して、地域住民や患者向けだけでなく、施設内で働く医療従事者向けについても、デジタル技術を駆使して標準化・効率化しようとする取り組みが始まっていた。

 例えば、2020年7月1日、米国ミネソタ州を本部とするメイヨークリニックの研究チームは、「大規模医療システム向けの持続可能な接触追跡・暴露調査のためのフレームワーク」と題する論文を発表した(関連情報)。以下では、メイヨークリニックにおける医療従事者向けCOVID-19接触追跡業務の効率化・IT化の概要を紹介する。

 メイヨークリニックには、ミネソタ州ロチェスター、フロリダ州ジャクソンビル、アリゾナ州フェニックスの3カ所に主要キャンパスがある他、中西部地域にメイヨークリニック医療システムの系列病院、診療所を擁している。これらの施設全体で約6万9000人の医療従事者が勤務しており、全米50州および138カ国から年間120万人以上の患者を受け入れている。

 メイヨークリニック全体の労働安全衛生管理業務を統括する労働衛生サービス(OHS:Occupational Health Services)は、3つの主要キャンパスと、4地域のメイヨークリニック医療システムから構成されており、共通の業務管理支援組織と単一の統合労働衛生データベースにより、個々のニーズに合わせた労働衛生サービスやプログラムを提供している。

 AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)など、最新のデジタルヘルス技術導入や医療データ利活用で著名なメイヨークリニックだが、感染症領域の接触追跡業務については、他施設と同様に労働集約的なプロセスに依存してきた。従来の接触追跡プロセスでは、感染者と接触した可能性のある医療従事者を特定するための詳細なインタビューに労力を費やしており、このワークフローをCOVID-19に適用すると、OHSのスタッフが勤務中の活動の詳細と濃厚接触の該当者リストを作成するためのインタビューを実施するのに、最大45分を要していた。

 従来のワークフローでは、COVID-19感染者の潜在的接触者のリストを作成した後、次にOHSの小規模チームが暴露を受けた可能性のある医療従事者に電話をかけていた。暴露の懸念の原因を説明し、相互作用による接触、接触期間、マスク、フェイスシールドなど個人用保護具(PPE)の装着の有無に関する情報を収集して、暴露リスクのレベルを判断し、医療従事者に助言するだけでも約15〜20分間要していたという。

 このように非効率的な業務プロセスの現状を打破するために、メイヨークリニックが構築しているのが「メイヨークリニック接触追跡プロセス2.0」である。図1は、そのベースとなる労働衛生接触追跡向けスケーリングフレームワークである。

図1 図1 COVID-19対応下の労働衛生向け接触追跡業務のスケーリングフレームワーク(クリックで拡大) 出典: Laura Breeher, et al.「A Framework for Sustainable Contact Tracing and Exposure Investigation for Large Health Systems」(2020年7月)

 フレームワークは、「コアチームの結成」「トレーニングとリソース」「検査」「スケーリングアップ/ダウン」から構成される。このうち、「トレーニングとリソース」で、定期的に変更する文書を電子化して集中管理する方針を打ち出している他、「検査」で、検査時期のためのアルゴリズム構築を掲げ、「スケーリングアップ/ダウン」で、オンラインコミュニケーションおよびフォーマットによる電話業務の置き換えを挙げるなど、デジタル化を意識している点が注目される。

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