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» 2020年12月16日 11時00分 公開

コロナ禍で新規製品開発をどう行ったか、リコー発スタートアップの挑戦製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

リコー発のスタートアップ企業として全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を2020年10月から展開するベクノス。同社は2020年3月にペン型全天球カメラの商品化を発表してから、量産開発および生産準備を進め、コロナ禍で制約を受ける中でも無事に製品リリースを成し遂げた。コロナ禍におけるモノづくりの苦労としてどのようなものがあったのだろうか。

[三島一孝,MONOist]

 リコー発のスタートアップ企業として全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を2020年10月から展開するのがベクノスだ。同社は2020年3月にペン型全天球カメラの商品化を発表してから、量産開発および生産準備を進め、コロナ禍で制約を受ける中でも無事に製品リリースを成し遂げた。コロナ禍におけるモノづくりの苦労としてどのようなものがあったのだろうか。また、それをどのような工夫で乗り越えたのだろうか。

photo ベクノスが製品投入を行った全天球カメラ「IQUI」。「生活に溶け込む」をコンセプトとし、デザイン性や素材感、使用性などをさまざまな角度から検討し、新たな形を生み出した(クリックで拡大)

リコーから生まれたスタートアップ企業ベクノス

 ベクノスは、リコー内で全天球カメラ「THETA」を開発し、民生用全天球カメラ事業を世界で初めて作り上げたメンバーがカーブアウト(外部資本を受けて事業を切り出して独立させる手法)により作ったスタートアップ企業である。全天球カメラは複数のカメラの映像を合成することで上下左右全方位の360度の撮影が行えるカメラだ。同社は2020年3月にペン型全天球カメラの商品化を発表し、同年10月から「IQUI」というブランド名で日本、中国、米国、英国、ドイツ、フランスで展開を開始している。

 「IQUI」は、「生活に溶け込む全天球カメラ」を開発コンセプトとし、持ち運びがしやすいコンパクトなペン型をベースに、ハードウェア設計を完全に新規で起こした製品である。特に、光学系は、天面に1つ、側面に3つという独自の4眼の設計としており、今までにない形を実現している。このプロトタイプについては、2020年3月までに開発を行い発表会を実施し同年10月に製品投入を行うことを発表した。しかし、製品化への道のりは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって翻弄されることになった。緊急事態宣言などがあり、人の移動が全面的に制限を受けることになったからだ。

 ベクノス 代表取締役 CEOの生方秀直氏へのインタビューを通じて、コロナ禍における新たなモノづくりの“リアル”をお伝えする。

エンジニアリングサンプルができた時点で「完全リモートワーク化」

MONOist まず、ベクノスの成り立ちと「IQUI」の開発の状況、COVID-19による影響について教えてください。

生方氏 リコーからカーブアウトで独立し2019年8月に会社として登記した。「IQUI」の原形となる試作開発はリコー内にいた時から進めており、ODM(Original Design Manufacturing)パートナーを含めて開発を進めてきていた。2020年に入ってからは工場とのやりとりを開始した。生産は中国のパートナー企業に委託している。生産パートナーはリコー時代からの付き合いのあるところもあるが、部材なども含めると新たなパートナー企業も数多く存在する。

photo ベクノス 代表取締役 CEOの生方秀直氏

 こうした量産の準備や、マーケティング、アプリ開発などのさまざまな取り組みを同時並行で進めつつ、エンジニアリングサンプルができた2020年3月に製品発表を行った。発表後の反響など手応えはあったが、ちょうどその頃から日本でもCOVID-19の感染が拡大し4月7日には緊急事態宣言が発令された。その後は海外はもちろん国内でも対面で人が集まって話を進めることが一切できなくなった。そこから「完全リモートワーク」で新規製品の量産立ち上げや各種作業を進めていくことになり、非常に苦労した。

MONOist どのような点で苦労したのでしょうか。

生方氏 スタートアップとして新たな出発を切ったところだったので、全ての面で苦労があったというのが本音だ。ただ、実際に生産現場に行くことができず、現物を見て判断できない点においては、モノづくりの領域での苦労は大きかったと感じている。

 通常、製造業では「現地現物現実」といわれるように、生産現場を直接見ないで量産を進めることはほぼあり得ない。しかし、人の移動が制限される中では、そうもいっていられない。そこで、Web会議システムによる会議をベースとして作業を進めていった。

 生産工程を設計しながら、試作ラインで部品を実際に流し、部品の評価を繰り返していく。それも工場のある中国から日本に実際に製造した試作部品を送ってもらい、それを見て評価する必要がある。国際郵便で何度もやりとりしながら、工程を詰めていった。工程で作られたものを1つ1つ見てフィードバックしてラインを改善し新しい試作品を送ってもらう流れでは、時間も手間もかかるので、設定を少しずつ変えたものを一度に何パターンかを試作ラインで流してもらい、一番正解に近いモノをベースにさらに追い込んでいくというやり方で進めた。

 言葉にすると、簡単なように聞こえるかもしれないが、部品といっても多くの種類が存在する。さらに、これらの組み合わせにより機能を発揮するため、組み立てる際の嵌合の具合や、色や素材感が正しく一致しているかという点など、組み合わせについても確認する必要がある。1つ1つの部品は精度高く仕上がっていても、組み合わせたトータルではスペックを満たさないケースもあり得る。こうした点を1つ1つ解決していく地道な努力が必要だった。公差をどう設定するのかという点も含め、モノを国際郵便でやりとりしながら、リモート会議で話を詰めて進める作業を3月以降、繰り返し繰り返し行ってきた。

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