これからEV開発責任者となる人へ、5つの提言和田憲一郎の電動化新時代!(40)(3/3 ページ)

» 2021年01月05日 06時00分 公開
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(2)マネジメントを学べ

 ここまでくると自明である。これまでは、社内や取引先のサプライヤーで同じ言語を用いるだけで、ある意味タコつぼ型で仕事が進んできた。しかし、分野の違う半導体や通信、エネルギー関連の人と一緒に仕事をしようとすると、プロジェクトを推進するためには従来以上にマネジメント力を磨くことが必要となってくる。

 これについては、筆者も苦い経験がある。「まったく新しい量産型の電気自動車を開発せよ」と任命されたものの、これまでにないことから、どうやってイノベーションを起こせばよいのか、社内の人に聞きまわったが、どうもピンとこなかった。やむを得ず、書店でイノベーションやマネジメントの本を探したとき、ピーター・ドラッカーの本に出合った。ちょうど名古屋で有志が開催していたドラッカー研究会に週末で参加し、異業種の方と議論を重ねたものである。

 自動車メーカーはクルマという単一商品を開発していることから、異なるモノを開発することは苦手であり、社内でイノベーションやマネジメントを学ぶ機会は少ないように思われる。このため、自ら進んで外に出て学んでいくことが大切ではないだろうか。

(3)車両とそれ以外の開発日程の組合せに注意

 従来のエンジン車では社内で調整すればよかったことでも、電池やECU、自動運転システムなどでは他社との開発が多岐にわたってくる。そうなると、車両開発に着手する前から、早期にスタートしなければならない内容も出てくる。これは開発が多層化することを意味し、極めて複雑となる。どれかがちょっと遅れると、プロジェクト全体に影響を及ぼしかねない。クリティカルパスはどこなのか、バックアップ案はあるのかなど、これまで以上にプロジェクト全体をマネジメントしていく必要が出てくる。

(4)EV開発責任者はリスクをとり、チャレンジせよ

 EV開発責任者の仕事は多岐にわたる。他社をしのぐ商品を、高品質かつ低価格で、事業性を確保しながら、日程通りに開発することが求められる。しかし、日程や事業性を優先するあまり、チャレンジ精神を後回しにする場合がある。残念ながら、チャレンジしていない商品は、競争が激化する中でトップレベルに立つことは難しい。

 先般、モデル3を分解視察する機会があった。前述の通り、高度な自動車技術とITの集合体だった。個々の技術はさておき、プロジェクト責任者としてのチャレンジ精神に感銘したことを1つ紹介したい。モデル3はその前に発売された「モデルS」とは異なり、年間50万台の生産とグローバル販売を前提に設計・開発されたクルマである。そのため、信頼性や組立性に対して、設計構想段階から練りに練ったクルマだと考えられる。

 モデル3の後席下側には、高電圧部品を集中したBOX(ペントハウスと呼ぶ)が設置されている。EVには車載充電器、DC-DCコンバータ、急速充電用取り出しコネクターなど多くの高電圧部品が存在する。これまでは、車両のあちこちに点在させることが多かったが、モデル3では約20の部品を後席下側にあるペントハウスに集中搭載した。

 「20個の高電圧部品を1カ所に集約した」と口で言うのは易しいが、非常に複雑な構造であり、開発の初期試作段階では、目標形状に対して2〜3倍のサイズがあったのではないだろうか。それを徹底的に小型化し、設計構想通りにペントハウス内に納めたことは称賛に値する。その結果、外部への高電圧ハーネスを削減させ、モジュールとしての品質安定性やEMC対策なども集中して取り組めただろうと推察する。

 「もし私がモデル3のEV開発責任者であれば、このようなことを実施できたか?」と自問すると、リスクがあまりにも高くためらってしまったように思える。チャレンジしても、20部品ではなく10部品程度に絞ったのではないか。しかし、モデル3では諦めなかった。開発中は、設計・実験部隊から「ムリ!」「出来ない!」「日程に間に合わない!」など突き上げられ、精神的に追い詰められた状態だったのではないだろうか。そのような中で多くの困難をうまく差配し、量産にこぎ着けた見識とチャレンジ精神は驚きである。

(5)二律背反の中から答えを見つけるのがEV開発責任者の仕事

 EV開発で避けて通れないのがエネルギーマネジメントである。EVはエネルギー源であるバッテリーで走行や暖房など全ての機能を補っている。限りあるエネルギー源を有効活用するためには、エネルギーマネジメントが計画段階から求められる。

 例えば、走行距離を伸ばそうとすると、電池搭載量の増加や低転がりのタイヤを採用がある。しかし、このような対策はレイアウトの問題やコスト増加などが課題となり、エネルギーマネジメントのアイデアはほとんどが二律背反である。つまり、EV開発責任者の仕事は相反する中からどうやって解を見つけていくのかになる。解決方法がない訳ではない。新しいアイデアを採用したり、部品の統廃合によって答えが出たりすることもある。



 最後に、EVの良しあしは、開発責任者の優劣に大きく左右される。筆者の勝手な意見かもしれないが、胃に穴が開くような日々が続くので、EV開発責任者は一生に一度の覚悟で臨むことをお勧めしたい。

→連載「和田憲一郎の電動化新時代!」バックナンバー

筆者紹介

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和田憲一郎(わだ けんいちろう)

三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。


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