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» 2021年01月12日 10時00分 公開

目指すところは同じ――「富岳」が導くSociety 5.0の実現と新型コロナへの貢献モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

理化学研究所 計算科学研究センター長の松岡聡氏は「第13回スーパーコンピューティング技術産業応用シンポジウム」の基調講演に登壇した。本稿では「富岳:『アプリケーション・ファースト』でSociety 5.0を志向して研究開発された世界トップのスパコンとその技術」をテーマに行われた松岡氏の講演内容をレポートする。

[加藤まどみ,MONOist]

 「第13回スーパーコンピューティング技術産業応用シンポジウム 『富岳』が拓くHPCの未来〜Society 5.0の実現に向けて〜」(主催:スーパーコンピューティング技術産業応用協議会)が2020年12月10日にオンライン形式で開催された。

 理化学研究所 計算科学研究センター長の松岡聡氏は、同シンポジウムの基調講演で「富岳とSociety 5.0の目指すところは同じだ」と語った。理化学研究所のスーパーコンピュータ(以下、スパコン)「富岳」は初のエクサスケールのコンピュータであり、日本で開発されたCPUを用いたスパコンとしては、PCや携帯電話機など広く普及した汎用(はんよう)CPUの広範なソフトウェアエコシステムと互換性のある形で開発された点で、従来と大きく異なる。クラウドやAI(人工知能)、ビッグデータなど幅広いアプリケーションに対応でき、その結果Society 5.0への貢献が可能になった。既に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策においても成果を出し始めている。

 本稿では、松岡氏の講演「富岳:『アプリケーション・ファースト』でSociety 5.0を志向して研究開発された世界トップのスパコンとその技術」を中心にその内容を紹介する。

かつてなかった汎用CPUのスパコン

 富岳はさまざまな課題を解決し、さらにビッグデータやAIなど幅広い分野での活用を実現するため、“アプリケーションファースト”を掲げて開発された。富岳という名称には、高い計算性能と応用分野の広さを両立させる、従来にないスパコンを体現するという意味が込められている。

 富岳の開発は「Co-design(コデザイン)」によって進められた。これは産業応用を含めたさまざまなアプリケーション側のメンバーと、マシンを作る理化学研究所と富士通側が、何年にもわたって協力して進めたもので、アプリケーション側では各種アプリケーションの計算上の特性を一般化、特徴化するとともに、ハードウェア設計側では、各種アプリケーションの特性を加味したシステム設計およびアプリケーションの最適化を行った。

 そうして完成したのが、広く使われている汎用CPU用のArmの命令セットを拡張し、富士通と理化学研究所が独自に開発したCPU「A64FX」である。特にさまざまなデータフォーマットのベクトル処理が可能であり、シミュレーションはもちろんのこと、ビッグデータやAIなど多岐にわたるアプリケーションが適用可能になる。

 富岳は2020年6月に歴代のスパコンで初めて「TOP500リスト」「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」「HPL-AI」「Graph500」の4部門でトップになり、同年11月にも引き続き“4冠”を達成した。富岳は汎用CPUの使いやすさや柔軟性を維持しつつ、単体のCPUとして特殊なCPUに追い付き、それを集積したスパコンとして追い越したということになる(図1図2)。

最近のスパコンランキングと今回のランキング 図1 最近のスパコンランキングと今回のランキング ※出典:理化学研究所 [クリックで拡大]
富岳のベンチマークテスト結果 図2 富岳のベンチマークテスト結果 ※出典:理化学研究所 [クリックで拡大]

 富岳の開発メンバーにとっては、単に1つのベンチマークテストで1位を取るのではなく、主要な性能ベンチマークテスト“全てでトップである”ということが重要だった。富岳は幅広い領域で最高性能を発揮することを目的として作られているからである。「特定のベンチマークテストでしか1位を取れないというようなマシンづくりはしてはいけないし、特定のベンチマークテストでしか1位を取れないのなら、われわれにとってはむしろ失敗といえる」(松岡氏)。

 A64FXの性能が認められ、搭載機は既に国内では名古屋大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)、また世界中の研究所や企業で採用されている(図3)。さらに、現在も多くの商談が進行中である。特に注目したいのは、米国エネルギー省(DOE)の研究所にHewlett Packard Enterprise(旧Cray)製のマシンとして導入されていることだ。「日本製のCPUが採用され、それがDOEの研究所で使用されている。これはスパコンの歴史を考えると非常に感慨深い」(松岡氏)。

A64FX搭載機を採用している企業や研究機関 図3 「A64FX」搭載機を採用している企業や研究機関 ※出典:理化学研究所 [クリックで拡大]

 実アプリケーションでは、スパコン「京」と比べて数十倍、最大100倍以上を目標としており、現状で図4のような性能を得ている。

Co-designされたターゲットアプリケーションの2020年12月1日現在の性能 図4 Co-designされたターゲットアプリケーションの2020年12月1日現在の性能 ※出典:理化学研究所 [クリックで拡大]
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