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» 2021年01月14日 14時00分 公開

スタートアップとのオープンイノベーションを成功させる契約書の作り方―前編―弁護士が解説!知財戦略のイロハ(9)前編(1/4 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略構築を目指すモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を、基礎から解説する。第9回は前後編に分割して、スタートアップとのオープンイノベーション時に留意すべき契約の内容などを説明する。筆者は経産省/特許庁が公開した、オープンイノベーション促進のための「モデル契約書」作成にも関わった。その経験からオープンイノベーションの意義や課題を踏まえた解説を行う。

[山本飛翔,MONOist]

 連載第8回の前回は、他社が自社商品を模倣した場合を想定し、他社への警告などのアクションをとる際の留意点、また、その逆に、自社の商品について他社から警告などを受けた場合の留意点をご紹介しました。

 第9回は前編と後編に分割して、スタートアップとのオープンイノベーションに当たって事業会社が締結すべき契約の留意点を紹介します。なお、本稿ではスタートアップと共同の取り組みを行う企業を、スタートアップと区別するために「事業会社」と呼称することにします。

 先日、昨今の事業会社とスタートアップのオープンイノベーションについて、特許庁と経済産業省から、「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」(以下、「モデル契約書」という)が公開されました*1)。このモデル契約書の作成に事務局弁護士として携わった筆者が、オープンイノベーションの意義や課題を踏まえて解説していきます*2)

*1)モデル契約書は経済産業省のWebサイトからダウンロードできる

*2)なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクト等の意見を代表するものではないことを念のため付言する。

⇒連載「弁護士が解説!知財戦略のイロハ」バックナンバー

多様な形をとるオープンイノベーション

 オープンイノベーションと一口に言っても、アクセラレーションプログラムの提供、業務提携や共同研究開発などといった出資を伴わない比較的ライトなもの、事業会社本体やCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの出資を伴うもの、M&Aなど、さまざまなものがあります。スタートアップに対する事業会社の関与度という軸で簡単にまとめると、以下のようになるでしょう。

緩やかな関与

ビジネスコンテスト

アイディア・ハッカソン

インキュベーションプログラム,アクセラレーションプログラム

単純な売買取引

中程度の関与

共同研究開発

研究開発受委託

技術提携

業務提携

高度の関与

出資(含むCVC、資本提携)

M&A

 このようなオープンイノベーションは、事業会社、スタートアップ双方にとってどのような意義があるのでしょうか。

事業会社は新規事業につながる“次の一手”を打てる

 事業会社は、自社の既存有力事業を破壊するような新規事業に取り組むことは容易ではありません(イノベーションのジレンマ)。一方、スタートアップは技術の発展によって、大きな資本と人手がなくとも新規事業を起こすことが容易になってきました。このような中で、事業会社が自社の既存事業を維持成長させつつ、将来のさらなる成長のために「次の一手」を打つためには、新規事業に挑戦するスタートアップと連携することが効果的な手法の1つであることは疑いないでしょう。

 つまり、事業会社はスタートアップと連携することによって、(1)外部から優れたイノベーションを取り込む、(2)新しいテクノロジーや事業の情報を得る、(3)自社のビジネスモデルをより盤石にするべく、自社の優良顧客となる(または自社の優良顧客を増やす)スタートアップを育てる、(4)アライアンスの程度を徐々に向上させていくことにより、M&A実行前に対象スタートアップを深く知ることができる、といった形で自社の既存事業や新規事業を強化できます。

 このような背景もあり、スタートアップとの協業に取り組む事業会社も増加してきています。国も上述のモデル契約書の他、事業会社からスタートアップに対する投資の減税措置を設ける(オープンイノベーション促進税制)など取り組みを行っており、事業会社がスタートアップとのオープンイノベーションから目を背けられない状況が加速しています。

スタートアップにとっては事業成長の有力な手段に

 他方、スタートアップとしても、人的、物的リソースが限られる中で、IPO(新規株式公開)、またはM&AというEXIT(創業後の利益回収)までの限られた期間*3)内に事業を大きくするには、事業会社とのオープンイノベーションを活用することが有力な手段となります。また、社歴の浅いスタートアップとしては、実績ある事業会社とのアライアンス自体が自社ブランディングにも寄与します。

*3)ベンチャーキャピタルから投資を受けるスタートアップは、当該ベンチャーキャピタルのファンドの運用期間内に、IPOやM&Aによる株式売却によるリターンを得る機会を提供する必要がある。

 このように、事業会社、スタートアップどちらの立場から見ても、オープンイノベーションの必要性は高いといえます。しかし、事業会社とスタートアップでは、その性質や考え方が大きく異なります。かかる相違点に留意して取り組まなければ、Win-Winの形でオープンイノベーションを成功させることはできないでしょう。

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