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» 2021年01月13日 10時00分 公開

サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(8):カシオの関数電卓はどうやって「モノ」から「コト」に移行したのか (2/3)

[前田利幸(日本セーフネット/タレス・グループ),MONOist]

デジタル化の波であらわになる関数電卓のビジネスモデル

 さらに時代は移り変わり、2010年代になるとデジタル化の波はついに生徒の学習環境にも影響を与えることになる。PCやタブレット端末は教師だけのものではなくなり、生徒が授業を受ける際の学習用のツールとしても活用され始める。国によってはデジタル化によって多くの教材をソフトウェア化するようになっていった。そうした時代の変化から関数電卓ソフトウェアにおいても、教師の授業用から生徒の学習用ツールへとシフトするようになった。

 販売当初のソフトウェアはディスク認証型のシステムを採用していて、コピーガード対策を行っていた。ディスクのコピーを取ってもコピーされたディスクではソフトウェアが動作しないよう不要に出回らないような対策を行っていた。しかし、従来のディスク認証型のシステムでは、対処できない課題に直面することになる。

カシオ計算機のディスク認証型の関数電卓ソフトウェア カシオ計算機のディスク認証型の関数電卓ソフトウェア(クリックで拡大)

 光学ディスクドライブを搭載しないPCの普及によってディスク型のシステムでは認証が行えなくなるとともに、認証のためのディスクを物理的に送付しなければならないことや、ソフトウェアのダウンロード配信にも対応できないことが課題になった。海外拠点に認証用ディスクを配送する場合は到着までに数週間も必要となる場合もあった。さらにビジネスモデルは、買い取り型の永久ライセンス以外をサポートしておらず、今では当たり前になっている試用のためのトライアルや、利用期間に合わせて使用料を支払うサブスクリプションビジネスなどにも対応できなかった。顧客の要望に合わせて、トライアルのためにディスクを貸し出してしまうと、貸し出しの管理に手間がかかり、さらにはディスクが物理的に紛失する恐れもあったのだ。

 これは、ソフトウェアビジネスであるのにもかかわらず、ハードウェアビジネスで直面することと同様の問題を抱えることを意味していた。また、生徒の関数電卓を用いた学習環境がソフトウェアベースにシフトしていく中、学校に対して従来通りに永久ライセンスを販売してしまうと毎年の新入生向けの需要が失われることになる。カシオは、現在のビジネスモデルのままでは継続的なビジネスを行うことができない事態に遭遇してしまった。今まで好調を維持していた関数電卓が、時代の移り変わりによって将来的に苦境に立たされる可能性も出てきた。

ソフトウェア型のライセンス制御に移行

 そこでカシオは、ディスク型の認証システムから、ライセンス履行をデジタル化させたソフトウェア型のライセンス制御に移行することにした。これによって、関数電卓ソフトウェアは全てWebサイトからダウンロード配信できるようになった。

 さらにライセンスモデルは、90日間のトライアル、1年間のサブスクリプション、3年間のサブスクリプションという3種類のモデルを用意した。

 これによって、関数電卓ソフトウェアをインストール後は90日間のトライアルが有効化されて試用できるようになり、ソフトウェアの貸し出しによる管理コストや紛失のリスク、そのまま利用されてしまうなどのリスクを排除できるようになった。

 そして、サブスクリプションの商用ライセンスによって、毎年の新入生の需要を失うことなく継続的な収益が見込めることになった。

ソフトウェア版関数電卓の画面 ソフトウェア版関数電卓の画面(クリックで拡大) 出典:カシオ計算機

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