「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
特集
» 2021年01月13日 06時00分 公開

MONOist 2021年展望:自動車に「ソフトウェアファースト」がもたらす競争力を考える (2/3)

[齊藤由希,MONOist]

 ただし、先述したトヨタとマツダのソフトウェアアップデートは、販売店で作業する必要があります。ユーザーが自宅の駐車場でも行える無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)には対応していません。機能を追加する土台となるソフトウェアを生産時に搭載しておく必要があるからです。

 例えば、フォルクスワーゲン(VW)は、電気自動車(EV)の「I.D.シリーズ」向けに、「vw.OS」というOS(基本ソフト)を開発しました。vw.OSはクラウドやバックエンドからクルマが持つ機能や能力を増強し、ユーザーにシームレスな進化や継続的なアップデート、アップグレードを提供するためのものです。従来は一体化していたコントロールユニットのソフトウェアとハードウェアを分離することを狙っています。ITアーキテクチャも変更しました。現在はECU(電子制御ユニット)とそれぞれに対応した固有のソフトウェアで構成されていますが、少数のセントラルコンピュータが中心となる構成にします。

 BMWは2020年後半から、中古車向けにもソフトウェアアップデートを提供します。対象となるのは、「5シリーズ」の最新モデルなど「オペレーティングシステム7」を搭載する全てのBMW車と、その互換性がある既販車です。無料のソフトウェアアップデートによって、クラウドベースのナビゲーションシステム用マップやiPhoneユーザー向けのデジタルキー、インテリジェントパーソナルアシスタントなどをOTAで車両に追加できるようにします。中古車の場合は、新車購入時に使用されていない機能を後から追加し、自分好みにパーソナライズすることが可能です。追加機能の実装に必要なハードウェアとソフトウェアが工場出荷時から搭載されていることにより、これが実現します。

BMWがOTAで提供する機能の例(クリックして拡大) 出典:BMW

 これから市販される各社の最新車種では、OTA対応が当たり前となりつつあります。例えば、2020年12月から販売が始まったメルセデスベンツのフラグシップセダン「Sクラス」では、インフォテインメントシステム「MBUX」の他、運転支援システムなど50種類の電子コンポーネントが、ユーザーの同意の下、OTAで更新できます。他のフラグシップセダンでは、レクサス「LS」もOTAに対応します。

新型Sクラスのインテリア(クリックして拡大) 出典:メルセデスベンツ

 日産自動車が2021年に発売する予定のEV「アリア」も、日産の最先端のコネクテッドカーとしてOTAに対応します。アリアに搭載する新開発のE/E(電子電気)アーキテクチャはOTAで機能を追加する拡張性を持たせています。また、更新可能なソフトウェアを扱う主要なユニットには「デュアルバンクメモリ」を採用。サブメモリに停車中や走行中に新しいソフトウェアをダウンロードしてから、メインメモリと切り替えることにより、短時間でアップデートを完了させます。アリアのインフォテインメントシステムはソフトウェアのソースコードで3000万〜4000万行の規模があります。デュアルバンクメモリはこの規模を前提に、さまざまな機能を追加できる技術的な拡張性を提供します。

日産の新型EV「アリア」(クリックして拡大)

 アリアのOTAは乗り味を変えるドライブモードの追加やナビゲーションシステムの更新、ユーザーインタフェースのアップグレードの他、地域ごとのニーズを踏まえたコネクテッド機能の提供に使いますが、自動運転レベル2相当のプロパイロット2.0を、レベル3にアップグレードするサービスは行わない方針です。レベル3ではドライバーが周辺を常時監視する必要がなくなり、システム側で安全のために考慮する要因が増えるためです。

 OTAで追加できる機能は、自動車メーカーが事前に想定した機能に限られます。レベル3の自動運転システムにアップグレードできるようにするには、当然レベル3の自動運転が可能な状態で発売しなければなりません。レベル3の自動運転について、自動車メーカーの反応はさまざまです。メルセデスベンツ、アウディ、ホンダのように積極的にレベル3の自動運転に対応する自動車メーカーがいる一方で、「ステアリングから手を放し、ドライバーが周辺監視を行わないことが、安心の提供につながるとは考えていない」(トヨタ自動車の開発主査)という意見もあります。OTAでどこまで機能を追加できるかは、そのモデルに期待する役割や、自動車メーカーとしての考えによって、大きく違いが出そうです。

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