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» 2021年01月18日 10時00分 公開

製品化に欠かせない“製品の計画書”、企画と設計構想を考えるアイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(3)(1/3 ページ)

自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する。第3回のテーマは、製品化に欠かせない「企画と設計構想」だ。これらの取り組みにおける重要な視点、アプローチについて詳しく解説する。

[小田淳/ロジ,MONOist]

 製品化は、企画と設計構想からスタートする。これらを一言で表現すると次のようになる。企画は「どのような製品を市場に出したいか」であり、設計構想はその企画の内容を受けて、設計者が「どのような製品を市場に出せるか」を現実的な視点で具体的にしたものである。よって、設計構想の内容の多くは企画の内容をより詳しく具体的な言葉、数値、図、イラストで示したものになっている。以下、それぞれの特徴的な内容について紹介する。

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製品化の起点となる「志(企画趣旨)」を考える

 企画の内容で最も大切であり、製品化の全ての起点となるのは「志」である。一般的に「企画趣旨」という。グローバルな表現にすると、この製品で「このような世界を作りたい」ということだ。何かと手本にされるアップルの「iPhone」の場合は、

野外など自宅以外の場所で自由に「電話ができ」「インターネット検索ができ」「音楽が聞ける」世界を作りたい!

となる。

 次に、それを達成するための手段を考える。iPhoneの場合は、「携帯電話」「パソコン(PC)」「ヘッドフォンステレオ」という従来個別に存在していたものを1台のデバイスにまとめることで、私たちの見慣れたiPhoneを作り上げたのだ(図1)。

「iPhone」の製品化の起点となる「志」 図1 「iPhone」の製品化の起点となる「志」 [クリックで拡大]

 このように「志」がまず起点になるべきであるが、現実的にはそううまくはいかないことが多い。それは“技術先行型”の場合だ。

 以前、NHKの朝の連続テレビ小説で放送された「まんぷく」では、この「志」を思い付くことができず、主役の福子が思い悩むシーンがよく演じられていた。「まんぷく」は、日清食品創業者で、「チキンラーメン」や「カップヌードル」の生みの親として知られる安藤百福氏と妻の仁子氏をモデルとした物語だ。

 ドラマの中で、インスタントラーメンを海外に持参した際、どんぶりがなかったため、コップにインスタントラーメンを割って入れ、お湯を注いでフォークで食べるというエピソードが描かれている。この発想からカップ麺のアイデアが誕生したのだ。その後、具材やカップの形状、材質、そして製造方法などを技術的に工夫し、日本でカップ麺を発売するのだが、売れ行きが伸びない……。まさに「斬新なアイデアと高い技術」が先行してしまったのである。その後、カップ麺を発売する以前に、何かとても大切な「志」を自分たちは思い付いていないのでは? と福子が悩むシーンが登場するのであった。

 詳細については、ドラマのDVDやオンデマンド配信などを見てもらうとして、最終的にはカップ麺で「○○のような世界を作りたい」という「志(○○の部分)」を福子が思い付き、それを大衆に広めることによりカップ麺は爆発的な売れ行きとなったのだ(図2)。

発売当初は「志」を思い付いておらず、売れ行きの悪かったカップ麺 図2 発売当初は「志」を思い付いておらず、売れ行きの悪かったカップ麺 [クリックで拡大]

「志」のない製品が陥りやすい“3つ”の事態

 「まんぷく」のような技術先行型で製品化が進み、そのまま製品ができてしまうと、斬新なアイデアと高い技術を誇示するかのような製品となってしまう。筆者の前職であるソニーで開発された「ウォークマン」も、発売当初はこのような状況であったという。

 製品に「志」がないと、次の3つのような事態に陥りやすい。

 1つ目は、協力者が得られないことである。製品の設計には非常に多くの人の協力が必要だ。それは設計者だけでなく、品質保証などの関連部署、部品メーカーなどである。もちろん、製品の売れ行きが良ければ、それら協力者の努力は報われるが、そうでなければ時間的、金銭的な損失が発生する。よって、成功するか否かが分からない製品化の最初のころは、多くの協力者に「志」に賛同してもらうことが必要なのだ。これは製品を購入するユーザーにとっても同じことがいえる。斬新なアイデアと高い技術を説明し、その内容がユーザーにとっていくら興味深いものであったとしても、「志」がなければ購入してはくれない。

 2つ目は、設計者のベクトルがそろわないことである。企画と設計構想の内容をいくら詳細に記述したとしても、製品の全ての仕様を記述することはできない。詳細仕様の多くは設計者任せとなっていて、設計者は「志」から製品の方向性をくみ取り、設計を進める。しかし、「志」がないと設計者同士のベクトルが違う方向を向き、整合性や統一感のない製品になってしまう。

 3つ目は、競合他社から類似の製品が出てきたときや、現在のコロナ禍のように市場の環境が変わったときに適切な対応ができないことである。「志」がないということは、製品を市場に出す目的がないのと同じことなので、そのまま進めてよいのか、仕様などの変更が必要なのか、判断がつくはずもない。

 前述した3つの内容は、次の例でもよく理解できる。高画質8Kの大型モニターを製品化する際、「業界最高の8K/100インチのモニター」とアピールするのと、「新型コロナの影響で旅行に行けなくなった今、旅行先の光景を現実と同じように体感できるモニター」のように「志」を示した場合とでは、どちらの方がより多くの協力者を得られ、より多くの設計者のベクトルをそろえられるか、また市場変化に対応しやすいかを考えてみてほしい。

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