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» 2021年01月19日 14時00分 公開

AIロボットでイチゴの受粉を自動化、世界中の食糧問題解決を目指すHarvestXモノづくりスタートアップ開発物語(7)(1/3 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第7回は、開発が困難とされる果物の植物工場を、AI搭載のロボットで実現しようと取り組むHarvest Xを紹介する。同社はイチゴの栽培を研究ターゲットにする。一般的にイチゴはミツバチによって受粉するが、じつはこの受粉過程がとても悩ましい問題だった。

[大沼慶祐(DMM.make AKIBA)/河野正一郎(テックベンチャー総研),MONOist]

 オープン6周年を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で社会課題を解決しようと奔走しているスタートアップを追い掛ける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第7回は、イチゴの自動生育と収穫を可能にするロボットシステムを手掛ける「HarvestX(ハーベストエックス)」を取り上げる。HarvestX CEOの市川友貴氏と同 取締役の渡邉碧為氏に、ロボット開発時に苦戦した点や工夫点などを聞いた。

右からHarvestXの市川友貴氏と渡邉碧為氏

開発が難しい果物の植物工場

 温度管理や光の照射時間など、作物の育ちやすい環境を保って野菜や果物をつくる「植物工場」の注目度が高まっている。大手のレストランチェーンはレタスなどの葉物野菜の一部を植物工場で生産し、自然災害の影響で料理に使う野菜の価格が高騰するリスクを回避している。

 ただ、植物工場は維持コストの高さがネックで、これが原因となり広く普及するまでには至っていない。こうした状況を変えるため、多くのスタートアップが新たな植物工場を実現しようと研究を続ける。

 植物工場の中でも特に開発が難しいとされているのが、果物栽培を行う施設だ。

 ブドウや柿など一部を除き、多くの果物は、生育の過程で受粉をしないと実が成らない。果物を栽培する一部の植物工場では、花粉を運搬する“自然界最強”のプレーヤーであるミツバチを工場内で放し飼いにしているところもある。だが、ミツバチは環境が少しでも自身に合わないと死んでしまう。飼育の難易度は、養蜂など自然環境下で行う場合よりも高い。一方で、ミツバチを外部から調達すると、その分果物の生産コストを押し上げてしまう。

 こうした課題を解決しようとしているのがHarvestXだ。

 現在はイチゴの栽培、収穫を完全自動化するロボットシステムの開発に取り組んでいる。センサーを備えた専用ロボットが花のめしべを検知して、花粉をブラシで塗って受粉させる。先端のアタッチメントをブラシから、アームと合体したハサミに変えることもできる。画像を通してAI(人工知能)がイチゴの収穫すべき成熟状態と判断すると、ハサミを使って自動で果実を収穫する。

 今後実証実験を重ねる予定で、実用化まで「あと一歩」(HarvestX)に迫っているという。

イチゴの受粉、収穫を自動化するロボットシステム*出典:HarvestX[クリックして拡大]

年間を通じて需要の高いイチゴをターゲットに

――植物工場向けの自動ロボットシステム研究を始めたきっかけは何ですか。

市川友貴氏(以下、市川氏) もともと高校時代からロボットの研究自体はしていました。農業向けのロボット開発を始めたのは2018年冬ごろです。千葉工業大学に入学後に、組み込み技術の受託開発を個人でしていたのですが、その中で農業用の組み込み機器開発などを引き受けたのが、農業との出会いでした。

 農業はいくつもの社会課題を抱えている分野です。例えば労働力不足の問題。国内の農業従事者は減少の一途をたどっています。また、発展途上国では人口爆発が原因で、将来的に食糧不足が生じるといわれています。

 こうした課題解決を行う上で、自分が持つロボット技術が農作物の生育や収穫において役立つのではないか、と考えました。

――農作物の中でもイチゴ向けのロボットを開発した理由は何ですか。

市川氏 開発を始めるにあたって、事業化を前提とした採算性を考えました。生産者がロボットシステムを導入すると初期投資額がかさむので、高単価で1年中需要がある果実がいい。高専在学時からロボット開発に取り組んでいた、HarvestX 取締役の服部星輝と話し合ったところ、イチゴがいいのではないかと結論が出ました。2018年の12月には、最初のイチゴ向けロボットシステムのプロトタイプを製作しました。

イチゴ向けロボットシステムのプロトタイプ*出典:HarvestX
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