曲がるだけじゃない、PCの新ジャンルを切り開く「ThinkPad X1 Fold」の価値小寺信良が見た革新製品の舞台裏(17)(2/4 ページ)

» 2021年01月20日 10時00分 公開
[小寺信良MONOist]

前代未聞が続々

―― 実際に使ってみて感心したのは、折る、伸ばすだけじゃなくて、L字型に途中で止めた状態でも専用モードで機能しますよね。これは最初から狙っていたんでしょうか。

塚本 最初から、途中で止めるってのはとても大事かなと思っていました。ケータイみたいに単純に閉じる、開けるだけだと使い方が広がらない。もともとPCは角度を変えながら一番具合のいいいところで使うっていうのがありますし、新しいセグメント、カテゴリーということであれば、大きいタブレットが曲がって折れるんじゃなくて、何か全く新しい使い方を生み出したいと思っていました。

L字型の状態でも独自モードで機能する L字型の状態でも独自モードで機能する(クリックで拡大)

―― これ、折り曲げのヒンジ部分の開発が大変だったんじゃないかと。僕もいろんなPDAを含めて開閉する製品を使ってきましたけど、ボディーに厚みがあるとどうしても開閉途中でヒンジ部分に隙間が開くんですよ。そういうことも完全に解決しちゃったんだなと。

塚本 製品は開発に5年かかってしまいましたけど、真っ先に取り組んだのがヒンジと、ディスプレイをどう支えるかってところなんです。技術的にはとても難しくて、社内コンペとかもしていろんな人が持ってきたアイデアで、どれが一番かっこよくて、丈夫なんだってやりましたね。

 隙間にほこりやごみが入ったら駄目だというのもあるので、どの角度にいっても目隠しになるようにというところは特に気を付けました。この目隠し部分は、キーボードを入れた時にそれ以上奥にいかないようなストッパーの役目もしています。カバンの中に入れていても、キーボードが画面を突き破ったりというのは避けたいので。宝物のように扱って欲しくないので、本当にラフに扱っても壊れない、安心して使っていただけるように設計しました。

開発が難航したヒンジ部分 開発が難航したヒンジ部分(クリックで拡大)

―― 特にすごいのが、折り曲げた下半分にキーボードを載せて使いましょうという。一番コストが高いディスプレイを半分つぶして、そこを使いませんっていうのは、よほど根性が入ってないと決断できないところじゃないかと思うんですが。

塚本 ちょっと使いたいっていうとき、例えばカフェでちょっとだけ文章直したいときに、本体広げてキーボード外して手前に置くっていう操作だと、さっと使えないですよね。あと、われわれもよくお声をいただいていたのがPCって新幹線や飛行機の中でものすごく使いにくいっていうのがあるんですね。

 ビジネスクラスなどだとまた違うのかもしれませんけど、僕らがよく乗るエコノミークラスの小さいテーブルではPCを広げて使うには狭すぎる。そのときに、この半分のサイズってめちゃくちゃ置きやすいんですよ。だから最初から新幹線でも使いやすいっていうことは、目指して開発していましたね。

ディスプレイの半分を使わずにタイピングを重視 ディスプレイの半分を使わずにタイピングを重視(クリックで拡大)

「それは本当に硬いやつか」、究極のポテチテストに挑む

―― また、このキーボードがあることで、折りたたんだときの隙間がピッタリ埋まるんですよね。逆にないと隙間が空いちゃう。

塚本 そこも開発中に開発担当のバイスプレジデントから、この隙間にポテトチップスが落ちたらどうすんだと(笑)。食べながら仕事してポテチが落ちた状態でカバンに入れて、ゴロゴロしてどうなんだというチャレンジも受けて。じゃあポテトチップステストしますって言って、日本のポテトチップスを載せて、グリグリグリグリやって大丈夫ですってレポート出したら、お前そのポテトチップスは本当に硬いやつかって言われて。

―― めんどくさいですね(笑)。

塚本 じゃあもっと硬いやつでやりますということで、「じゃがりこ」を買ってきてグリグリテストして。テストレポートは英語なんですけど、「Potechi」とか「Jagarico」っていう英文で「PASS」とか書いて(笑)。

 じゃあ次はメタルだと。コインとかクリップとかいろんなチャレンジされたんですけど、合格しました。もちろんお客さまには推奨はしないんですが……。ディスプレイはいったん少しへこんだとしても自然に元に戻るような形で設計してあります。結構いろいろチャレンジがありましたけど、今考えるといい思い出です(笑)。

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