特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
インタビュー
» 2021年01月25日 14時00分 公開

開発と連携し“人にやさしい”生産現場を実現、多品種少量生産方式「D-PICS」スマート工場最前線(1/3 ページ)

多品種少量生産に適した生産方式として有名なセル生産方式。多数のメリットの反面、設備投資費や作業者の教育コストがしばしば課題として挙げられる。こうした課題を解決するのが、ローランド ディー. ジー.が独自開発して自社内運用を行う、モノづくり支援システム「D-PICS」と、それに対応したデジタル屋台だ。担当者にD-PICSの詳細や強みを聞いた。

[池谷翼,MONOist]

 顧客ニーズの多様化や変化の速さといった市場変化を踏まえて、生産方式として多品種少量生産を取り入れることの重要性が製造業全体で意識されるようになって久しい。多品種少量生産に適した生産方式として有名なのがセル生産方式だ。ライン生産方式と違い、1人の作業員が複数作業を担当することで生産効率の向上や、需要変動への柔軟な対応が可能になる。こうしたセル生産方式のメリットは今や広く知られており、多数の企業が自社の生産方式として採用している。

 ただ、セル生産方式を導入しようとすると、各セル作業台に工具や治具の他、品質保証を目的としたさまざまな周辺機器などを用意する必要がある。こうした設備投資はしばしば多額なものになり、特に中小企業にとっては重い負担となりかねない。また、ライン生産方式などと比較すると作業者に複雑で高度な技術スキルが求められるため、教育コストがかかる点も指摘される。

 こうした課題点を解決し得る、独自の生産方式開発に取り組む企業の1つが、ローランド ディー. ジー.だ。同社はモノづくり支援システム「D-PICS(Digital Production Indicate&Control System)」と、それに対応したデジタル屋台を独自開発し、国内外の拠点で業務用インクジェットプリンタの組み立て製造などに活用している。

デジタル屋台(右奥)と組み立て中のインクジェットプリンタ(左手前)*出典:ローランド ディー. ジー.[クリックして拡大]

 同社は1人の作業者に1つのデジタル屋台を与える「1人1台生産体制」を採用することなどで、一般的なセル作業システムと比較して低コストでの導入、増設を可能にした。また、IoT(モノのインターネット)技術を含むデジタル技術を活用して作業者の業務負荷を減らす仕組みも取り入れる。

 ローランド ディー. ジー. 製造部 部長の渥美光是氏は「D-PICSの開発コンセプトとしても掲げているが、当社は(セル生産方式よりも)『人にやさしく、品質に強い』生産方式の実現を目指している」と語る。以下に、D-PICSの仕組みや機能について詳しく見ていこう。

ローランド ディー. ジー.の渥美光是氏(左)と、同 砂子祐也氏(右) *出典:ローランド ディー. ジー.

開発段階で組み立て時の障壁をつぶし込み、設備コストを低減

 D-PICSのデジタル屋台は、PCやディスプレイの他、作業に必要となる電動ドライバーなどの工具や治具、小物部品、測定機器を搭載したセル作業台だ。作業員一人一人に1台ずつ与えられ、製品の組み立て作業を各自行う。台下部にはキャスターが付いており、製品の増減産に合わせて工場内を移動させ、レイアウトを変更できる。

デジタル屋台のシステム構成*出典:ローランド ディー. ジー.[クリックして拡大]

 ディスプレイには開発部門と共有する3D CADデータを基にした作業図「デジタルマニュアル」が表示される。併せて、使用すべき工具や治具に関する指示も出るので、作業員はこれらに従って製品を組み立てる。部品の接合部分の設計や、部品の組み合わせ方は、あらかじめデジタル屋台に最適な仕様になっている。これによって作業員の負担を減らし、組み立て効率を上げる狙いがある。

 電動ドライバーにはワイヤレスモニタリング技術が搭載されており、トルク量などのデータを収集する他、これらのデータを基にビスの締め忘れなどをD-PICSがリアルタイムに判定しており、サーバを介して遠隔で確認できる。この他、測定機器をD-PICSに接続することで、測定結果の合否判定をシステムが自動で行い、人為的なミスも防げる。

 組み立てに必要な小物部品は別作業者がピッキングして、最適な量を最適なタイミングで届ける。また、2020年からは、製品や治具、工具の置き忘れを画像判定するためのカメラを設置して、画像判定による防止などに取り組んでいるという。この他、デジタルマニュアルのページ送りを遠隔で行うための専用リモコンを設置した。業務用プリンタなど大型製品の組み立ては、屋台から少し離れた場所で作業する必要も出てくるが、そうした場面で役立つ。

 「個人的にはデジタル屋台が真価を発揮できるのは、1人当たり10分以上かかる作業だと考えている。人が覚える作業量を減らしつつ、品質保証を確保できる。一方で、単純な繰り返し作業であれば、わざわざPCから指示を得る必要がないので、機器によって自動化することが望ましい。D-PICSは自動化するには少ロットの、機械化に適さない製品の組み立て作業に向いている」(砂子氏)

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