都市型モータースポーツ「フォーミュラE」、アウディBMWの撤退から見える転換点とはモータースポーツ超入門(4)(1/2 ページ)

自動車産業が直面する電動化のうねりはモータースポーツにも押し寄せている。F1は運動エネルギーと排気エネルギーを回収するエネルギー回生システム「ERS(Energy Recovery System」を搭載、世界耐久選手権(WEC)の最上位クラスではハイブリッドシステムを採用する。レーシングカーの電動化も市販車と同様に確実に進んでいる状況だ。

» 2021年02月01日 06時00分 公開
[福岡雄洋MONOist]

 自動車産業が直面する電動化のうねりはモータースポーツにも押し寄せている。F1は運動エネルギーと排気エネルギーを回収するエネルギー回生システム「ERS(Energy Recovery System」を搭載、世界耐久選手権(WEC)の最上位クラスではハイブリッドシステムを採用する。レーシングカーの電動化も市販車と同様に確実に進んでいる状況だ。

 サスティナブルなモータースポーツの最高峰といえるのが、エンジンを搭載しない100%電気駆動の車両によるフォーミュラレース「フォーミュラE(FE)」だ。日欧の自動車メーカーがこぞって参戦し、電動パワーユニットの開発を進めている。「E」はもちろん、Electric(エレクトリック)を意味する。

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 1950年に始まったF1が70年に渡る伝統と歴史を持つのに対し、フォーミュラEが誕生したのは2014年のこと。まだまだ新参者のレースカテゴリーだ。ガソリンを大量に消費し、大音量をまき散らすこれまでのモータースポーツに対し、環境負荷の小さい新世代のグローバルモータースポーツを作る目的で、2011年に世界自動車連盟(FIA)会長のジャン・トッド氏と、実業家のアレハンドロ・アガグ氏が共同で発案した(アガグ氏はフォーミュラEの創設者兼CEOである)。こうして2014年9月、中国・北京で史上初の電気駆動フォーミュラレースが「シーズン1(2014〜2015年)」として幕を開けた。

 フォーミュラEのレーススケジュールは年をまたいで設定されている。初開催となった2014年は「シーズン1(2014〜2015年)」、翌年は「シーズン2(2015〜2016年)」となり、現在は「シーズン7(2020〜2021年)」を迎えることになる。

日本メーカーでは日産自動車がシーズン5(2018〜2019年)から参戦している(クリックして拡大)出典:日産自動車

 シーズン7からはFIA公認の世界選手権に格上げされ、2021年は「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」として1月16〜17日にチリ・サンディエゴで開幕する予定だった。ところが2020年12月23日、開幕戦を延期することが公式Twitterで発表された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受けた措置で、現時点では2021年2月26〜27日にサウジアラビアで開催する予定となっている。今シーズンもコロナ禍の影響を受けるフォーミュラEだが、ここではシーズンインを前に「ワンメイク」「モーター&バッテリー」「ゼロエミッション」「ワークス活動」の4つの観点からこのレースの特徴を紹介したい。

バッテリーはワンメイク、独自開発の部分が勝敗を左右

 1つ目の特徴は参加する全てのマシンが共通部品を使うワンメイクレースの様相が強い点だ。とくに初年度のシーズン1については、全てのチームが同一のマシン「スパーク・ルノー・SRT 01E」を使ってレースが行われた。史上初の電動フォーミュラマシンはスパーク・レーシング・テクノロジーズとマクラーレン・エレクトロニック・システムズ、ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング、ダラーラ、ルノーが共同開発した。パワートレインはマクラーレン・エレクトロニック・システムズが供給し、バッテリー設計はウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングが担当。いずれもF1チーム関連企業によるものだ。トランスミッションはヒューランド、タイヤはミシュランが提供した。

 シーズン2もシャシーはワンメイクだったものの、電動パワートレインについては参戦チーム独自の開発が認められた。主要ユニットであるモータージェネレーターユニット(MGU)とインバーター、トランスミッションの開発が自由化されたことが呼び水となり、自動車メーカーによる参戦表明が相次ぐことになった。

メルセデス・ベンツはF1とフォーミュラEの両方に参戦する唯一の自動車メーカーだ(クリックして拡大)出典:ABB

 電動パワートレインの要の1つであるリチウムイオンバッテリーはコスト低減を目的にワンメイクが続いている。シリーズ4(2017〜2018年)まではウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング、シリーズ5(2018〜2019年)からはマクラーレン・アプライド・テクノロジーズが供給している。現在、電動パワートレインの制御ソフトウェア開発は各チームに許可されているが、バッテリーについてはその制御ソフトウェアも全車共通だ。

 多くの共通部品を使用することはコスト低減につながるメリットがある半面、独自に開発できる技術領域が限定されるという側面もある。現在、フォーミュラEで自由に開発した部品を採用できるのは、シーズン2から解禁された電動パワートレインに加え、リアサスペンションや回生協調システムなどに限られている。

 しかし、フォーミュラEで重要になるのは「限られた電気エネルギーをいかに効率的に使って走るか」という点であり、独自開発が認められた範囲でもレースの勝敗を左右するだけの差がつく。効率の高い電動パワートレインはもちろんのこと、油圧ブレーキと回生ブレーキを協調する回生協調システム、これらを統合的に制御するソフトウェアを含めたトータルエネルギーマネジメントがカギになっている。

アウディの電動パワートレイン。総合効率は95%以上を実現、重量はわずか35kg未満と軽量だ(クリックして拡大)出典:アウディ
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