スタートアップとのオープンイノベーションを成功させる契約書の作り方―後編―弁護士が解説!知財戦略のイロハ(9)後編(3/4 ページ)

» 2021年02月15日 14時00分 公開
[山本飛翔MONOist]

迅速に協業開始するためにタイムテーブル作成を

 業種によるものの、スタートアップはおおむね10年程度の短期間*7)の内にEXIT(M&AによるバイアウトやIPO)を目指して、迅速に活動していくことになります。しかし、協業開始までに時間がかかり過ぎると、スタートアップは共同研究開発のモチベーションが維持しづらくなります。

*7)VCのファンドの運用期間との関係。

 スタートアップのスピード感と平仄(ひょうそく)を合わせるためにも、契約締結後、タイムテーブルを作成することが望ましいでしょう。モデル契約書では以下のように定めています(共同研究開発契約4条)。

第4条 甲および乙は、本契約締結後速やかに、前条に定める役割分担に従い、本研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、両社協議の上これを決定する。

2 甲および乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を逐次相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を行うものとする。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社

 なお、これに加えて撤退基準を定めることも考えられます。ただし、共同研究開発においてはすぐに事業の黒字化が見込めない場合も多いため、撤退基準において安易に短期間で損益決算書(PL)上に現れるような成果を求めるべきではありません。

想定外の分野、製品にライセンスを付与する場合の留意点

 モデル契約書では、共同研究開発の成果物に関する特許について、製品単位でのライセンスは定めています。しかし、共同研究開発契約の締結後、当初想定していた製品以外にも特許発明を実施したくなる場面もあるでしょう。例えば、当初は自動車用のヘッドライトカバーに関わる分野での特許実施を想定していたけれども、テールランプのカバーに共同開発の成果物たる特許発明が活用できることが判明した場合などです。

 この場合、共同研究開発契約とは別にライセンス契約の締結を設定することになります。事案によっては共同研究開発の契約にライセンス契約を集約する場合もありますが、以下では、モデル契約書に言及しつつ、共同研究開発の成果物を利用して事業会社が新製品を出す場合の留意点を見ていきます。

新製品に商標を記載する場合は?

 事業会社の新製品にスタートアップの技術を組み込む場合、その技術の名称について、スタートアップが商標権を取得していることがあります。この場合、スタートアップから、「ブランディングのため商標を新製品に記載してほしい」と依頼される可能性があります。

 商標のライセンス付与は無償で行われることが多いと思われますが、万が一、商標の価値やこれに具現化されている(スタートアップの)信用を毀損(きそん)してしまうと、スタートアップの成長を阻害するおそれがあります。前回、そして今回も繰り返し述べてきたことではありますが、パートナーたるスタートアップの成長可能性が閉ざされることは事業会社にとっても不利益となり得ます。そこで、使用方法についても一定のルールを定めておくことが望ましいでしょう。モデル契約書は次のように定めています(ライセンス契約2条5項、同8条)。

第2条

(中略)

5 乙は本製品に本商標を付すように努めるものとし、当該使用の限りにおいて、甲は、乙に対し、本商標の非独占的通常使用権を無償で付与する。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社

第8条 乙は、第2条第5項の規定に基づき本商標を使用する場合、商標法その他関連法規の規定を遵守するとともに、本商標の機能を損ない、権利の喪失を招くことのないように努めなければならない。

2 乙は、甲の事前の同意なしに、以下の各号に定める行為を行ってはならない。ただし、甲乙間で協議の上、本契約に基づき使用可能な本商標に類する商標を定めた場合は、当該商標を本製品に使用することができるものとする。

(1)本商標を本製品に類似する商品に使用する行為

(2)本商標に類似する商標を本製品に使用する行為

(3)本商標に類似する商標を本製品に類似する商品に使用する行為

3 乙は、本商標の使用に際し、その商品の品質の低下等により、本商標にすでに化体されている業務上の信用を失墜させるような行為をしてはならない。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社

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