現地現物のデジタル化でDXを促進する製造業DX推進のカギを握る3D設計(8)(1/2 ページ)

日本の製造業が不確実性の高まる時代を生き抜いていくためには、ITを活用した企業の大変革、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への取り組みが不可欠だ。本連載では「製造業DX推進のカギを握る3D設計」をテーマに、製造業が進むべき道を提示する。第8回は“現地現物のデジタル化”という観点で、DXをどのように進めていくべきかを考察する。

» 2021年03月04日 10時00分 公開

 現代の資本主義には「産業資本主義」「金融資本主義」「デジタル資本主義」の3つがあるという。18世紀中盤の産業革命以来、工業を中心とする産業資本主義が経済を発展させてきた。やがて資本を集めた銀行が産業の成長を促し、金融資本主義が生まれる。21世紀に入り金融工学がそれを加速し、その行き過ぎが2009年のリーマンショックをもたらした。そして、現在、デジタル資本主義によりシェアリングエコノミーのような新たな経済が生まれ、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon.com、Microsoft)がデータ主導の経済をけん引。米国は金融とデジタル資本主義を融合させ、中国は国家資本で製造業を育成している。

 歴代の経団連の会長を見ても、日本ではまだ製造業を中心とした産業資本主義が色濃く残っている。大胆にまとめてみると3つの資本主義の間には、図1のような関係があるのではないか。今や製造大国となった中国との競争を考えると、日本の製造業はデジタルとの融合を進めることで、その強みに磨きをかけ、国を豊かにしていかなければならない。そのためのデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)とは何だろうか? “現地現物のデジタル化”という観点でDXが進められないか考えてみたい。

3つの資本主義の関係性について 図1 3つの資本主義の関係性について [クリックで拡大]

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設計革新に現物を生かす

 前回、現地現物を3Dデジタルツイン化することで、デジタル擦り合わせ力と現場力を向上させていく可能性を示した。その本質は、3Dスキャンした点群データを構造化することで点群モデル化し、エンジニアリングデータとして扱えるようにしたことであった。今回も大豊精機で実施した設備の置き換えの事例で振り返ってみよう(図2)。

3Dデジタルツイン化による設備の置き換えの事例 図2 3Dデジタルツイン化による設備の置き換えの事例 ※画像提供:大豊精機 [クリックで拡大]

 まず、3Dスキャンした点群データにアセンブリ構造を定義しておく。現物が3D CADで作成した3Dモデルと同じように扱えるので、アセンブリ構造を参照しながら、撤去する設備本体やそこにつながる付属ユニットや配線、配管を除去することができる。このため、設備とそれに関わる不要な設備の撤去作業をデジタル検証することが可能になる。また、撤去後の状態を再現できるため、新設備が入るかどうかの確認や新設備のレイアウトも検討できる。

 重要なポイントは、3D CADで設計中の新設備の3Dモデルを使って、それが現場環境に即したものになっているかを、設計段階で確認できるという点である。製造現場のデジタル化を進めることで、設計者が現場をデジタルで理解し、それが設計の革新につながっていく。このような変化は、一度体験してみないと分からないだろう。DXを進める目的は劇的な生産性の改善であり、ビジネスモデルの変革であって、ITの導入ではない。しかし、何もしなければ変化は起こらない。まだ経験したことのないことを想像することは困難だ。まず、最先端のITを体験することで改善の機運を生み出すというアプローチがあってもよいだろう。

組織のはざまにあるボトルネック

 部門のはざまにある領域もDXの波に乗り遅れ、アナログ作業主体となりやすい。ITによる生産革新の実現には仕事のプロセスを変えることが必須であり、そのための部門間の調整に手間取ってしまうからだ。例えば、メカ設計部門とエレキ設計部門の間の業務であるケーブルやワイヤハーネス設計も、現地現物を中心としたアナログなモノづくりが残る領域である。メカ設計部門では機構部分の設計を、エレキ設計部門ではケーブルの接続情報を設計する。実際、ケーブルやハーネスまで含めて3D設計する企業はまだ少なく、どの部門がそれをやるのか決まっていないケースも多く見られる。こうした状況においては、まず、それぞれの役割分担を決め、ケーブルまで含んだエレメカ統合の3Dデジタルツインを準備することがDXへのスタートとなる。

 ラティス・テクノロジーは図研と共同で、こうした課題を解決するための手段を提供している。図研が提供する「E3.series」はケーブル、ハーネスのための統合電気CADである。ケーブルの接続情報を統合することで、接続図、ケーブル製作図、盤レイアウト図などの複数図面を自動で作成する。この接続情報は3D空間においては、“どことどこをケーブルでつなぐか”という情報になる。これを入力とし、ケーブルやハーネスの3D形状を作成するのが、「XVL Studio WR」というツールである。3D空間上においてどこにケーブルを通し、どこで束ねるのか、あるいは、どこを通してはいけないのかを指定すれば、自動的に3Dのケーブルを作成する(動画1)。「XVL」のような超軽量3Dモデルを利用すれば、複雑なメカモデルの中にも軽快にケーブルを配策していくことが可能である。

動画1 XVL Studio WR(3D配索検討) ※出典:図研
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