「効率化」に明るい未来はない、DX時代に目指すべきシステムコンセプトモノづくり革新のためのPLMと原価企画(1)(2/2 ページ)

» 2021年04月06日 14時00分 公開
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システムの「効率化」だけでなく「高度化」を

 1つ目に挙げた部門間のつながりについて触れる。設計部門で的確なコスト評価や受注可否判断を行うには、実際原価やコストテーブルの情報が必要となるが、それらは異なる部門のデータをつなげる必要がある。調達価格/生産コストを設計システムに連携させる、試験データと設計検証データを分析できるようにする、部品図と検査図をひも付ける。部門間のデータがつながることで、今までより的確な判断、分析ができ、問題の未然防止も可能となる。

 しかし、部門間のデータをつなぐのは簡単ではない。互いのデータのキーも、業務の処理単位も異なるため、個別システム間を同一のインタフェースでつなぐには限界がある。そうなると、大規模な統合システムが適しているが、さまざまな業務をカバーできる機能がある反面、操作性はあまり良くない。操作性を落としたくないという現場の声に押され、部門をつなぐことよりも、個別業務の効率化が主眼となってしまうのだ。

 無論、個別業務の効率化という要素を完全に捨てることはできない。しかし、目指すべきシステムコンセプトを「個別最適化され使い勝手の良い”分断”システム」とするのか、「使い勝手が悪いが、全体が”統合化された”システム」とするのかを明確にしなければならない。そして、今の時代は後者を選択せざるを得ないと筆者は考える。

工数減より、リードタイムの短縮化を

 次に、2つ目の意思決定スピードの向上について触れる。変化の激しいビジネス環境においては、工数削減よりスピード向上(リードタイム短縮)の方が、価値が高い。なぜなら、ビジネスの自由度が増し、競争力の強化を期待できるからだ。

 迅速な意思決定とその根拠となる質の高いデータの確認/記録は重要な視点である。意思決定の根拠を残し、振り返りを行うことで、次の意思決定の質とスピードを上げることができる。つまりPDCAサイクルを適切に回すことが求められているということだが、まさしくこの“当たり前のこと”を実行できる業務、システム構築が必要なのだ。

 特におろそかにされがちなのが、見積もりの受注可否判断である。受注可否判断は、今後の利益を大きく左右する重要な意思決定だ。しかし、その根拠となる、詳細な原価/設計/仕様情報の記録は手間がかかるため、個人持ちのデータによる属人的な判断がされてしまい、振り返りもできない状況となっている。

 このような状況をそのままにしていいのか。コスト評価や意思決定の振り返りを行う上で、根拠情報の確認/記録は「本来やるべきだったこと」のはずだ。ならば、工数”増”になったとしても実施しなければならない。多くの改革プロジェクトは、「現状からどのくらい工数が減ったか」を重要な評価指標にしてしまう。スピードより効率化を重視する“呪縛”に縛られているからだ。スピードの重要性は認識していても、まずは「工数減ありきのスピードアップ」を目指してしまい、根拠情報に関わる改革は後回しにされる。

 DXプロジェクトの担当者は経営者や現場責任者を目の前にして、「今までやるべきことをしてなかった分、工数をかけてでも改革する必要がある。まずはスピードを向上させる。次にそのスピードを維持した上で工数をどのように下げるかを考える」とはっきり主張しなければならない。現状より楽になる「効率化」システムではなく、工数増になっても迅速な意思決定ができる「高度化」システムの構築が成功の鍵となるのだ。

工数減や効率化のみを追求する姿勢を見直すべき

 もちろん、工数減はそれ自体で重要な経営課題である。しかし、スピードやリードタイムも工数減と同様にフォーカスすべきことを経営者や現場責任者にも理解してもらわなければならない。経営者は「その取り組みで、どのくらい工数が減るんだ!」と、工数減や効率化のみ追い求める姿勢を見直すべきだ。そして、現場責任者も「経営者に報告しやすい」「現場に説明しやすい」という理由から、効率化に逃げ込んでいないかを改めて考える必要がある。

DX時代のシステム化[クリックして拡大]

 まとめると、DXの取り組みを単なるIT化プロジェクトにしないためには、次の2つのコンセプトを柱とする必要がある。

  • 部門/データをつなぐ……部門最適化されたシステムより使い勝手が悪いことを許容する
  • 意思決定のスピードを上げる……本来やるべきことをしていなかったので、工数が増えてでも実施する

 工数ではなくスピードやリードタイムを重視、効率化から高度化への方針転換を目指すべきだ。くどいようだが、効率化を完全に否定しているわけではない。ただ、結果的に工数が増えてでもやるべき改革があるという視点を持つことが重要だと言いたい。10年後、20年後を考えた際に、生き残れる企業に変革できるのか。大局観をもったシステムコンセプトを立てる必要がある。

 次回以降から、より具体的な論点に触れていきたいと思う。設計/製造/原価、業務/テクノロジー、経営/現場などさまざまな切り口で解説を行う。

筆者プロフィール

株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)

IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行、IT導入まで一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。

著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、『赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-』(日刊工業新聞社)、『プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由』(日経BP社)他多数執筆。

◇企業情報:株式会社プリベクト


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