成長しない日本のGDP、停滞の20年で米国は日本の4倍、中国は3倍の規模に「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(2)(1/3 ページ)

苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第2回では、GDP推移から見た日本経済の停滞について解説します。

» 2021年04月19日 11時00分 公開

 統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。

  1. 日本経済の現状を知る
  2. その中で起きている変化と課題を把握する
  3. あるべき企業の姿を見定める
  4. 今後考えていくべき方向性を共有する

 前回は、われわれ労働者の平均給与が実は減少していて、右肩上がりで所得が上がり続ける先進国の中ですっかり置いていかれている事実を共有しました。

 日本経済の変調は、労働者の所得だけではありません。さまざまな経済指標でその変調ぶりを確認することができます。そこで、第2回となる今回は、国の経済の指標として最も重視されている「GDP(国内総生産)」を基に、日本経済の現状を掘り下げていきたいと思います。

そもそもGDPとは何か

 「GDP」もそうですが、経済用語として出てくる「付加価値」や「生産性」など重要な指標ほど、曖昧な解釈やイメージで捉えられがちです。GDPと、われわれ企業の事業活動と密接に関係のある付加価値や生産性は深い関係があります。

 まずは、手始めに「GDP」の定義について確認してみましょう。GDPは、Gross Domestic Productの略で、日本語では「国内総生産」とも呼ばれています。内閣府が公開している「用語解説」によれば、GDP(国内総生産)は「居住者たる生産者による国内生産活動の結果、生み出された付加価値の総額である」と説明されています。

 この「付加価値」とは「産出額から中間投入を控除したもの」です。より具体的にいえば、「産出額」とは企業活動でいう「売上高」に当たります。「中間投入」は「仕入れ」に相当します。つまり、付加価値とは、企業活動における粗利とほぼ同じ意味だといえます。別の言い方をすれば、付加価値とは私たちが自分の仕事を通じて加えた金額的な価値となります。そして、国内で生み出された付加価値の合計がGDPということになります。GDPには「金融投資」による配当金や、海外での事業活動による利益などは含みません。

 GDPには、生産活動によって生み出された付加価値を合計した「生産面」と、給与所得や営業余剰などの付加価値の分配を合計した「分配面」、消費支出や資本形成などの支出を合計した「支出面」の3つの側面があります。そして、この3つの指標はいずれも同じになる「三面等価の原則」もよく知られていますね。つまり「生産=分配=支出」が成り立つということになります。

 ここまで見てきたように、GDPはその国の経済活動を知るための最も基本となる指標といえます。そして、われわれ企業による事業活動の成果そのものでもあるわけです。

日本のGDPは20年以上も停滞

 日本の経済統計で、GDPを扱っているのは、内閣府が公表している「国民経済計算」です。まずは、この国民経済計算における、GDPのグラフから見ていくことにしましょう。

photo 図1 日本の国内総生産(GDP)名目値 暦年(クリックで拡大)出典:国民経済計算の指標から筆者が作成

 図1は、日本のGDP支出面の推移をグラフ化したものです。GDPの統計データは、生産面や分配面もありますが、この支出面のデータが一般的なものとして活用されています。

 グラフでは、経済に関する重要なイベントのあった年に赤線を入れています。1990年のバブル崩壊、1997年の消費税増税と金融危機、2008年のリーマンショックです。民間最終消費支出を青色、政府最終消費支出を赤色、総固定資本形成(民間)を緑色、総固定資本形成(公的)をピンク色、財貨・サービスの純輸出をオレンジ色で示しており、GDP支出面はその総和となります。

 最終消費支出は、民間(ほとんどが家計支出)や政府による、新規の財貨やサービスへの消費支出を合計したものです。総固定資本形成は、建造物や機械などの固定資産への支出ですね。つまり投資(設備投資)です。純輸出は、輸出から輸入を差し引いた正味の金額で、海外との貿易収支です。まとめると、GDPの支出面は、消費と投資と純輸出から構成されているといえます。

 これらを踏まえてあらためて図1を見ると、GDPの合計値は、1997年でピークとなった後、減少および停滞をしており、リーマンショックを底にしてまた上昇傾向になっているという傾向が読み取れます。最近では上昇傾向にあるものの、長期視点で見れば、長い間停滞していることが分かります。1997年のピークを超えたのは、2015年になってからのことで、なんと日本は20年以上もほぼ経済が成長していないということになります。

 図1からは、民間最終消費支出(青)がGDPの大部分(約55%)を占めることが分かりますが、この項目も停滞しています。民間最終消費支出は、私たち国民の消費ですが、この20年間で人口もほとんど変わりませんので、1人当たりの消費がほとんど変化していないということがいえます。さらに、総固定資本形成=投資も停滞しています。唯一上昇傾向がある政府最終消費支出も上昇の程度が鈍化しているように見えます。

 これらの事実(ファクト)から見ても、日本経済は民間の消費や投資が停滞・減少していて、全体としても「停滞」していることがよく分かるのではないでしょうか。このように書くと、物価変動を加味した「実質値」では成長している、というご指摘をいただくと思いますが、「物価」や「名目値と実質値の違い」については今後取り上げていきたいと考えています。

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