脱炭素対応急ぐ三菱重工、100%子会社の三菱パワーを2021年10月に統合へ製造マネジメントニュース(1/2 ページ)

三菱重工業は、2020年度(2021年3月期)連結決算と2021〜2023年度の中期経営計画「2021事業計画(21事計)」の進捗状況について説明。2020年度連結業績は、2020年11月に発表した通期見通しをおおむね達成した。21事計では、エナジー事業を脱炭素に対応させる「エナジートランジション」に向け、100%子会社の三菱パワーの統合を決めた。

» 2021年05月11日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 三菱重工業は2021年5月10日、オンラインで会見を開き、2020年度(2021年3月期)連結決算と2021〜2023年度の中期経営計画「2021事業計画(21事計)」の進捗状況について説明した。2020年度連結業績は、受注高が前年度比20.0%減の3兆3363億円、売上収益が同8.4%減の3兆6999億円、事業利益が同835億円改善の540億円、親会社の所有者に帰属する当期損益が同53.4%減の406億円となり、2020年11月に発表した通期見通しをおおむね達成する内容となった。

三菱重工の2020年度連結業績三菱重工の2020年度連結業績 三菱重工の2020年度連結業績(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けている事業のうち、民間航空機の構造体事業(ティア1)はCOVID-19の再流行による航空機市場の低迷を受けて2020年10〜12月期から減速しており、期初の前年度比10〜30%減という想定を下回る状況にある。民間航空機向けの航空機エンジン事業は、期初予想の同35〜55%減の範囲内にあるという。一方、物流・冷熱・ドライブシステムなどの中量産品事業は、大きく落ち込んだ2020年4〜6月期から回復を続けており、固定費削減の効果もあって事業利益は期初予想を大幅に上回った。

COVID-19の影響を受けている3事業の状況 COVID-19の影響を受けている3事業の状況(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 2021年度の業績見通しは、受注高が前年度比7.9%増の3兆6000億円、売上収益が同1.4%増の3兆7500億円、事業利益が同2.7倍の1500億円、親会社の所有者に帰属する当期損益が同2.2倍の900億円。2020年度に取り組んだ、洋上風車事業のビジネスモデル・事業構造の組替え、工作機械事業の譲渡、艦艇・官公庁船事業の買収、香焼工場の売却といった事業ポートフォリオの組み替えが一段落することや、COVID-19の影響からの回復などを織り込んで、増収増益を見込んでいる。

2021年度の業績見通し 2021年度の業績見通し(クリックで拡大) 出典:三菱重工

水素とアンモニアを用いた“カーボンフリー発電”を既設プラントで

 2020年度連結業績では、原子力や防衛・宇宙などが堅調に推移し、中量産品事業もCOVID-19影響からの回復のめどが立つなどしたものの、民間航空機関連事業は厳しい状況にある。そして、世界的な脱炭素社会への取り組みの加速により、エナジー事業の中核だった石炭火力の新規受注は望めない状況にある。

 事計21は、このエナジー事業を脱炭素に対応可能な構成へ変えていく「エナジートランジション」が大きなテーマになっている。三菱重工 社長 CEOの泉澤清次氏は「カーボンニュートラル社会実現に向けては、短期と中長期、それぞれの取り組みを進めていく必要がある」と語る。

 短期の施策では、再生可能エネルギーの導入拡大で課題となる電力供給の安定化に向けて、既存インフラである火力と原子力の有効活用を進める。火力発電の脱炭素化は、燃焼時にCO2が発生しない水素とアンモニアを用いた“カーボンフリー発電”の実証と商用化を2025年までに開始する方針だ。「新設だけでなく、既設プラントの改造で脱炭素化と有効活用も狙う」(泉澤氏)という。また、これら“カーボンフリー発電”については、三菱パワーの高砂地区(兵庫県高砂市)で開発から自社設備での実証や検証を行える一貫体制を構築済みとする。

火力発電の脱炭素化に向けた取り組み火力発電の脱炭素化に向けた取り組み 火力発電の脱炭素化に向けた取り組み(左)と三菱パワー高砂地区の体制(右)(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 原子力については、国内PWR(加圧水型炉)の再稼働への対応を進めながら、世界最高水準の安全性を実現する次世代軽水炉を開発し、市場投入する方針である。

原子力による脱炭素への貢献 原子力による脱炭素への貢献(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 中長期の施策となるのが、水素エコシステムやCO2エコシステムの構築だ。水素エコシステムでは水素の製造から輸送、貯蔵、利用に至るまで、CO2エコシステムでは、CO2の回収から輸送、貯蔵、転換利用まで、これらエコシステムの構築に積極的に関わっていく。水素関連の脱炭素技術の2025年をめどに確立させ、CO2の回収は2023年に技術ラインアップの拡充と事業化を果たしたい考え。泉澤氏は「グローバルで先行して進められている水素やCO2関連の事業開発に参画し、実用化を目指す。また、エコシステムの開発では三菱重工の技術だけでなく、スタートアップをはじめとする外部との連携も積極的に取り組んでいきたい」と強調する。

水素エコシステムの構築CO2エコシステムの構築 水素エコシステム(左)とCO2エコシステム(右)の構築に向けた取り組み(クリックで拡大) 出典:三菱重工

 これらの取り組みによって、火力発電の需要急減による短期的な売り上げの低下をカバーし、水素、CO2の事業化を果たすことにより中長期で成長軌道を描けるようにする方針である。なお、エナジートランジションの推進に向けて、2021年10月をめどに火力事業をけん引する100%子会社の三菱パワーを三菱重工に統合することも決めている。

エナジートランジションでエナジー事業の成長を描く エナジートランジションでエナジー事業の成長を描く(クリックで拡大) 出典:三菱重工
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