東芝がトリプルゲートIGBTを開発、3つのゲート電極でスイッチング損失を4割削減組み込み開発ニュース(2/2 ページ)

» 2021年06月02日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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ダブルゲートIGBTを経てトリプルゲートIGBTへ

 日本政府が2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げるなど、脱炭素に向けた取り組みへの注目が急速に高まっている。この脱炭素を実現していく上で導入が進むであろう、太陽光発電システムのパワーコンディショナー、EV(電気自動車)やさまざまな産業機器のインバーター、サーバの電源などには、より効率の高い電力変換器が求められる。

脱炭素に求められる電力変換器のキーコンポーネントがパワーデバイス 脱炭素に求められる電力変換器のキーコンポーネントがパワーデバイス(クリックで拡大) 出典:東芝

 この電力変換器の中でも、スイッチング周波数が数百〜10kHz、電力容量で数k〜数MWというボリュームゾーン向けに広く用いられているのがシリコンベースのIGBTである。シリコンパワー半導体よりも高効率な次世代パワー半導体であるSiC(炭化ケイ素)デバイスやGaN(窒化ガリウム)デバイスへの期待も高まっているが現時点では高価なため、今後もしばらくはIGBTの需要が継続的に伸長するとみられている。

IGBTは電力変換器のボリュームゾーンで広く用いられている IGBTは電力変換器のボリュームゾーンで広く用いられている(クリックで拡大) 出典:東芝
シリコンIGBTの応用例パワー半導体の市場規模の推移 シリコンIGBTの応用例(左)とパワー半導体の市場規模の推移(右)(クリックで拡大) 出典:東芝

 シリコンIGBTで発生する電力損失は、大まかに分けてスイッチング損失と導通損失に分けられる。トリプルゲートIGBTは、スイッチング損失がキャリアである電子とホールの注入と消滅の速度に依存することに着目し、3つのゲート電極による制御でキャリアの高速での注入と消滅を実現しスイッチング損失の大幅な低減につなげた。また、トリプルゲートIGBTの開発の背景には、ゲート電極を2つ持ち、ターンオフ損失のみ低減可能なデュアルゲートIGBTへの取り組みもあった。「ダブルゲートIGBTを開発しなければトリプルゲートIGBTというコンセプトにたどり着けていなかった」(高尾氏)。

IGBTで発生する損失ダブルゲートIGBTを経てのトリプルゲートIGBTへの進化 IGBTで発生する損失(左)とダブルゲートIGBTを経てのトリプルゲートIGBTへの進化(右)(クリックで拡大) 出典:東芝

 なお、トリプルゲートIGBTは、ゲート電極部を除きシリコンIGBTと構造はほぼ同じであり、ゲート電極部の配線パターンを形成するフォトマスクを変更するだけで製造できるため、ゲート電極を1つだけ持つ通常のシリコンIGBTに対して大幅なコストアップにはならない見通しだ。

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