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» 2021年06月14日 11時00分 公開

平均値から1割以上も低い日本の「労働生産性」、昔から低いその理由とは「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(4)(5/5 ページ)

[小川真由/小川製作所,MONOist]
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「生産効率」は高いのになぜ「労働生産性」が低いのか

 一方で、製造部門における「生産効率」は極めて高いのではないでしょうか。乾いた雑巾をさらに絞るような、無駄を省き効率化を図る努力は、各社相当力を入れています。DX(デジタルトランスフォーメーション)など、さらに効率化を図る手段が登場してきていますが、日本人としてはこういった最適化は得意とするところですね。

 間接部門の非効率はありながら、製造現場は極めて高い「生産効率」を誇るのに、なぜ日本の企業は「労働生産性」が低いのでしょうか。私は、ビジネスの「値付け」が低いことが根本的な原因だと考えています。

 「労働生産性」の定義を思い出してほしいのですが、労働生産性は付加価値を労働時間で割ったものです。同じ付加価値であれば、労働時間を短縮することで労働生産性は上がります。しかし、既に効率化されている工程をさらに短縮したところで、労働生産性の向上は微々たるものですね。

 日本のビジネスでは「生産性を高める」場合には多くの経営者やコンサルタントなどは「無駄を省く」「コストをカットする」「工程時間を短縮する」という思考に走りがちです。つまり、「労働生産性」の式で言えば「分母=労働時間」を小さくすることです。これは間接部門で大いにやってほしい改革ではありますが、製造部門では既に十分以上に取り組んでいます。

 しかし「分子=付加価値」を大きくすることに着目する人はそれほど多くはいません。本来、商売の基本は、高く買ってもらうことのはずです。当然、付加価値は、売値を上げることでも上がりますね。「売値はお客様や市場が決めるものだ」や「プロダクトアウトではなくマーケットインの思考をすべきだ」という価値観が極端に広まりすぎていて、自ら正当な対価とは何かを考えることを放棄してしまっている経営者も多いと考えます。

 日本のビジネスでは、高く買ってもらう努力よりも、安くする代わりに大量に買ってもらうビジネスモデルが優先されている傾向のようですね。つまり、値付けを安くし、大量に生産して、大量に売るというまさに「規模の経済」を軸としたビジネス観です。残念ながら、この後人口が減っていき、消費者も減っていく日本において、規模の経済によって成長することには限界があります。

 今回の労働生産性の数値を見てまず考えるべきは、労働の効率化よりもむしろ、労働に対する適正な価値とは何かということでしょう。実は労働生産性の定義からも明らかなように「安すぎる仕事を適正価格に値上げすること」でも、大きく労働生産性が向上します。企業経営者はこの当然のことについても、もう少し真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。

 また、自動化された手段に代替されていくビジネスは、今後労働者が不要になっていきます。特に「底辺への競争」ともいわれるグローバルビジネスなどで「規模の経済」を軸としたビジネスほど、労働者が自動化された手段に代替されやすいと思います。このようなビジネスでは、国内の労働者よりも新興国の労働者へ、新興国の労働者よりも自動化された手段へ、といった具合に安さを追い求めていく方向性になりがちです。

 既にグローバルビジネスに組み込まれているビジネスは、今後はさらに新興国ではなく自動化された手段もライバルになっていきます。企業経営者はこのような「時代との競争」を戦いながら、真に価値を生み出す「人の仕事」をどのように創り出すかが求められているように思います。

 その1つの方向性が、国内中小企業が規模の経済では成立しないニッチ領域で、高付加価値となる仕事を展開する「多様性の経済」という軸ではないでしょうか。人口が減少する日本において、この多様性の経済を少しずつ成長させていく必要性を感じています。この多様性の経済については、今後ことあるごとに触れていきますので、その際に少しずつご紹介していきます。

先進国の中では凡庸で労働生産性が特に低い日本の労働環境

 今回まではまず、日本経済の現状を知ることに重点を置いて、経済統計というファクトを共有してきました。平均所得、1人当たりGDP、労働生産性といった主要な経済指標について、日本の現在地を確認できたのではないかと思います。そして、いずれの指標でも日本は最先進国の一角から「凡庸な先進国」に落ちぶれてしまっていること、とりわけ労働生産性が低いことをご理解いただけたのではないでしょうか。そして、労働生産性が低いということは、労働者が怠慢なわけではなく「値付けが低すぎるビジネスが多い」ということをご理解いただければと思います。

 次回からは、この20〜30年ほどでの日本経済の「変化」について、ご紹介していきたいと思います。失われた〇〇年といわれるうちに、停滞しているように見えて、実は変化していることも多いですね。何が変化していて、何が停滞しているのか、明らかにしていきたいと思います。

 主要な観点は「人口や世帯構成」「物価やデフレ/インフレ」「為替・物価水準」といったあたりです。また、日本企業の変質と「日本型グローバリズム」とも呼べる特有の変化についても共有していきたいと思います。普段は目にしないような統計データが続くかもしれませんが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

≫連載「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」の目次

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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