人とくるまのテクノロジー展2021 特集

ソニーが本気で取り組む自動車開発、間近に見たケータイの勢力図変化が背景に車両デザイン(1/3 ページ)

さまざまな分野で「モビリティ」への関心が高まる中、自動車技術会では今回初めて自動車業界以外の企業による基調講演を開催。ソニーグループでAIロボティクスビジネスを担当する執行役員の川西泉氏が、VISION-Sの開発秘話やモビリティビジネスへの参入を決めた背景などを語った。

» 2021年06月14日 06時00分 公開
[友野仙太郎MONOist]

 自動車技術会は5月26日から「2021年春季大会」をオンラインで開催し、基調講演にソニーグループが登壇した。開発中の自動運転車「VISION-S(ビジョンエス)」やモビリティへの取り組みについて解説した。さまざまな分野で「モビリティ」への関心が高まる中、自動車技術会では今回初めて自動車業界以外の企業による基調講演を開催。ソニーグループでAIロボティクスビジネスを担当する執行役員の川西泉氏が、VISION-Sの開発秘話やモビリティビジネスへの参入を決めた背景などを語った。

2018年からソニーの「車両開発」がスタート

 「ソニーがクルマをつくるのか」と話題になったのが、2020年1月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」だ。ソニーは自動運転のコンセプトカーとしてVISION-Sを初披露。実際に走行可能なプロトタイプで、その完成度の高さに「ソニーは本気だと大きな反響を呼んだ」と川西氏は当時を振り返る。

 ソニーはVISION-Sの開発にあたり、マグナの子会社で完成車の受託生産を行うマグナ・シュタイヤーとタッグを組んだ。これについて川西氏は「ソニーのエンジニアには自動車を開発する知見は皆無に近く、シャシーや車体を作ることはできない」と説明する。このため、自動車メーカーからの受託生産で設計設備や工場などを構えるマグナ・シュタイヤーを訪問。「描くビジョンを共有できる重要なパートナーだ」(川西氏)といい、2018年春から車両開発に取り掛かった。

 VISION-Sの開発には、マグナ・シュタイヤー以外にも多くのサプライヤーが参画している。ボッシュやコンチネンタル、ヴァレオ、ZFといったメガサプライヤーをはじめ、AWS、ボーダフォン、AImotive、BENTELER、Blackberry QNX、エレクトロビット、ジェンテックス、HERE、NVIDIA、クアルコム、ブレンボ、レカロなど多くの企業が名を連ねる。欧州の企業ばかりだが「車体を開発するマグナ・シュタイヤーが欧州のため、地理的に近い欧州の会社が中心となった」(川西氏)という事情があったためで、現時点ではパートナー選びに特に制約は設けていないという。さらに現在は「日系サプライヤーとも話を進めている」(同氏)とも述べた。

VISION-Sの最新の走行テストの様子(クリックで再生) 出典:ソニー

ソフトウェアは全て社内で開発

 VISION-Sは、電気自動車(EV)として設計した。プラットフォームはパワートレーンやステアリング関連で構成し、VISION-Sのようなクーペスタイルだけでなく、SUVやワンボックスなどさまざまな車種に適応できるようにした。ホイールベースは3000mm確保してあり「バッテリーのレイアウトなどを含めて、十分な室内空間を確保してある」(川西氏)という。

VISION-Sのプラットフォーム(クリックして拡大) 出典:ソニー

 システム関連は、車載ソフトウェアとクラウドを融合したソフトウェアスタックを構築。ユーザーインタフェースからエンターテインメント、システムアップデート、システムセキュリティなどさまざまな機能を持っている。車両全体のE/E(電気電子)アーキテクチャは「全てのシステムにセキュアゲートウェイを通してアクセスする」(川西氏)という仕様によって、TCM(テレマティクスコミュニケーションモジュール)やHMI(ヒューマンマシンインタフェース)、ADAS(先進運転支援システム)などを制御する。

 パワートレーンなどを制御するビークルコントローラーは、ADASの各機能とも密接につながっているため安全性を重視している。なお、各ドメインコントローラーとセキュアゲートウェイはイーサネットで接続しており、「それぞれ要求される帯域において通信速度は変わるが、基本的には1Gbpsでつながっている」と説明。通信も現在はLTEだが、5G対応も進めているという。

 車体やパワートレーンなど車両のハードウェアを設計するノウハウは持たないソニーだが、ソフトウェアの部分については全て社内で手掛けた。「これからのモビリティ社会の在り方や、ソニーが送り出すクルマがどうあるべきか考え、コンセプトやインテリア、エクステリア、UX(ユーザーエクスペリエンス)、UI(ユーザーインタフェース)、カラー、マテリアルコミュニケーションデザインなどは全てソニーがデザインした」(川西氏)という。

 ソニーはテレビやウォークマン、PC、モバイル端末などこれまでコンシューマー向け製品は数多く手掛けている。ただ、VISION-Sのデザインについては「これだけの質量のある商品は初めてで、全体感を把握するのが大変だった」(川西氏)という。さらに「細部のデザインまでこだわりながら、各国のレギュレーションや衝突安全性能を満たなければならず、予想以上に制約が多かった」(同氏)と自動車という製品ならではの苦労を説明する。

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