インタビュー
» 2021年06月22日 14時00分 公開

Siriを生んだ研究所が、国内企業とシリコンバレーの“つながり”作りを支援イノベーションのレシピ

SRIインターナショナルと野村ホールディングスが提携して、米国に「野村SRIイノベーション・センター(NSIC:Nomura-SRI Innovation Center)を設立した。同組織は日本の国内企業とシリコンバレーのスタートアップとの「橋渡し」の役割を担う。

[池谷翼,MONOist]

 “スタートアップの聖地”である米国シリコンバレーで、事業パートナーとなる企業を探そうとする企業は、国内製造業においても珍しいものではない。最新テクノロジーを有するスタートアップとの協力を通じて、自社事業におけるイノベーションを創出することなどが主な狙いだ。

 ただ当然ながら、徒手空拳でシリコンバレーに飛び込んでも、適切なパートナーを見つけ出すのは難しい。そもそもスタートアップが有するテクノロジーが、自社にとって本当に有益なものかを判断するのも困難だ。

 こうした悩みを抱える国内企業向けに、シリコンバレーのスタートアップとの“つながり”を提供するのが、野村SRIイノベーション・センター(NSIC:Nomura-SRI Innovation Center)である。

「ソートリーダー」が集まるシリコンバレー

 NSICは、SRIインターナショナルと野村ホールディングスが提携して設立した組織である。拠点はSRIインターナショナルのキャンパス内(米国カルフォルニア州)に置いている。

 SRIインターナショナルは米国スタンフォード大学の研究機関として設立され、現在は独立して世界最大級の非営利研究組織として活動する団体である。研究領域は幅広く、AI(人工知能)やロボティクス、コンピューティング、センシングなどの分野を手掛ける。過去にはAppleの音声認識アシスタントシステム「Siri」につながる技術開発なども行った。

 NSICの設立目的は、国内企業とシリコンバレーのスタートアップやVC(ベンチャーキャピタル)を結び付けることなどを通じた、イノベーション創出の支援にある。特定のテクノロジー分野でリーダー的立場にあるスタートアップチームやVCなどの投資家コミュニティー、大学研究室を紹介して、交流機会を提供する。製造業に関わるAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、3D点群測定、ブロックチェーン、3Dプリンティング、マイクロファクトリーなどの他、フィンテックや健康、気候、食料分野のテクノロジーに精通した人材も紹介できるという。

NSICの紹介動画
NSICのクリス・コワート氏※出典:NSIC[クリックして拡大]

 NSIC マネージング・ディレクターのクリス・コワート氏は、シリコンバレーで国内企業が事業パートナーを探すメリットについて「シリコンバレーには革新的なアイデアを世間に先取りして発見する『ソートリーダー』と呼ばれる人材が多く集まっている。また、米国スタートアップなどの中には日本市場への参入を図る企業も多く、パートナーシップ構築に前向きな企業も多い」と語る。

 だが、「特定の人への紹介という橋渡しを自分から頼めるという点で、(エンターテインメント業界の中心地である)ハリウッドの文化に比べればまだ自由さはある」(コワート氏)としつつも、シリコンバレーにおいて自社にとって適した人材を探し、紹介してもらうというのは非常に難しいと指摘する。こうしたハードルを乗り越え、イノベーション創出に必要となる人との関わりを提供するのがNSICの役割だ。

NSICはエコシステムへのアクセスを支援する※出典:NSIC[クリックして拡大]

“失敗”経験を生かしたプログラム

 NSICではテクノロジーへの理解を深めて、実用化の可能性を検討するワークショップなどからなる専用プログラムも用意している。受講することでメンバー企業は、困難な課題の解決に役立つ「ディープテクノロジー」に対する理解を深めて、テクノロジーをベースにした事業の可能性を具体的なプロセスに沿って検討できるようにする。

 プログラムは「テクノロジー」「スタートアップ」「イノベーションプロセス」「ベースアクティビティー」という4つのトラックで構成されている。各トラックともに10〜15人くらいのグループ形式で受講するものと、各企業が個別受講するセッションやワークショップが用意されている。

 例えば、テクノロジートラックではディープテクノロジーに関する基礎知識をワークショップや専門家との対話形式で学び、実社会への適用方法について議論する。そして各企業がディープテクノロジーを評価して、自社での扱い方を考える。また、プログラムの内容には「製品やサービスのプロトタイプ制作の期限を設けるべきだ」「失敗と判断する際の基準を明確化しておくべきだ」など、コワート氏をはじめAppleやGoogle、Adobeなどでイノベーションにまつわる成功や失敗を経験したNSICメンバーの知見が反映されているという。

NSICはエコシステムへのアクセスを支援する※出典:NSIC[クリックして拡大]

 「メンバー企業が抱える悩みは、テクノロジーの実用化可能性を知りたい、あるいは、具体的に実用化を検討しているわけではないが将来性を知りたい、などまちまちだ。私たちは、具体的なテクノロジーを想定している企業に対しても、他のテクノロジーについての幅広い可能性を提示できるようにしている。ただ注意してほしいのは、NSICはただ単にオープンイノベーションに向けた教育機会を一方的に提供するだけではない。ワークショップなど人との関わりの中でテクノロジーに関する生きた知見を増やす機会とともに、最終的にはさまざまな人材との関わりを提供することを目指している」(コワート氏)

 また、NSIC デピュティ・ディレクターのパム・デゼィエル氏は、シリコンバレーには日本の製造業が業務の脱属人化を推進するのに必要なテクノロジーを有するスタートアップなども多く集まっていると語る。「SRIインターナショナルからスピンアウトしたスタートアップに、Drishtiがある。カメラのビジョンテクノロジーをAI(人工知能)と組み合わせることで、製造ライン上の状況を可視化して、プロセスの改善施策につなげられる」(デゼィエル氏)。

 コワート氏はNSICの活動において、今後5年間で約100社のメンバー企業参加を目指すとしている。

⇒その他の「イノベーションのレシピ」の記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.