タテとヨコのデジタル化によるコマツの設計プロセス改革とシミュレーション活用SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021(2/5 ページ)

» 2021年06月23日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

建設機械の性能の決め手となる油圧機器

 同社 油機開発部門で取り組む改革プロジェクトとシミュレーション活用事例について詳しく紹介する前に、横山氏は建設・鉱山機械における油圧機器の役割について、油圧ショベルを例に次のように解説した。

建設・鉱山機械における油圧機器の役割 建設・鉱山機械における油圧機器の役割 ※出典:小松製作所 [クリックで拡大]

 「まず、ポンプがエンジン出力を油圧に変換する。次に、コントロールバルブがオペレーターの操作に応じて、油圧をシリンダーやモーターに分配。シリンダーは油圧で伸縮し、作業機を動かす。モーターは油圧で回転し、走行やショベル上部の旋回を行う。このように、建設機械の力強く精密な動作は、油圧機器が作り出しており、建設機械の自動化においても重要な役割を果たしている。また、建設機械の動きは、油圧と相性が良いことから、ショベル以外にもさまざまな建設機械で油圧機器が使われている」(横山氏)

 コマツが扱う油圧機器は、ポンプ、バルブ、モーター、シリンダーなどさまざまな種類があり、建設機械の大きさに合わせて、豊富なサイズラインアップを用意する。「コマツでは、建設機械の性能の決め手となる油圧機器を自社で開発・生産し、高品質、高信頼性、付加価値向上を追求している」と横山氏は説明する。

コマツの油圧機器 コマツの油圧機器 ※出典:小松製作所 [クリックで拡大]

ベテラン設計者からの技術伝承/開発工数確保

 建設機械の性能の決め手となる油圧機器を自社開発する同社の油機開発部門では、複雑化、多様化する製品要求に対して、高品質な製品をタイムリーに開発するという開発部門全体の課題に加えて、

  • 油機自社開発の成長期を支えてきた経験豊富なベテラン設計者からのノウハウや技術の伝承
  • 新たな製品要求に対する開発工数の確保

という2つの課題に直面している。

 前者は、ショベルが油圧化され、油圧機器の自社開発・製造が始まった1970年代の黎明(れいめい)期から、ショベル用油圧システムが進化し、油圧機器の品質、信頼性向上、コスト改善などがなされた1980〜1990年代の成長期。そして、ショベルで磨いた油圧技術を他の機種や装置へ展開していった2000年以降の発展拡大期におけるコマツの歴史の中で、現在、成長期を支えてきたベテラン設計者からのノウハウ/技術伝承が大きな課題になっているという。

 また、後者は、新たな製品要求に対する開発工数をいかに確保するかという課題であり、設計プロセスで生じている設計検討のヌケ/モレ/ムラによる手戻り、過去の設計情報や不具合情報の埋没化、それら情報発掘の余計な工数や活用不十分による手戻りといったものをなくすことが求められている。

 そして、これら課題の大本として、横山氏は

  • 経験による設計検討(ベテランが支えている設計品質)
  • 膨大な情報(蓄積した技術や知見を、最大限活用することが難しい状況)

の2つを挙げ、これらを生み出している原因は「人間系頼りで、属人的な設計プロセスにある」(横山氏)と指摘する。講演では、実際に聞こえてきた若手設計者の声をいくつか紹介し、属人的な設計プロセスに課題を感じている状況があったことを紹介した。

設計品質向上のための設計プロセス改革

 では、同社 油機開発部門ではどのようにして、設計品質向上のための設計プロセス改革に着手したのか。

 経験豊富なベテラン設計者と若手設計者とでは、設計品質、効率ともにどうしても大きな差が生まれてしまい、1つの組織として見た場合、設計品質のバラツキが出てくる。そこで、油機開発部門では、この属人的な設計プロセスから脱却し、ITを駆使した設計プロセスに変革する取り組みを推進。ベテランが持つ設計ノウハウや設計情報を整理、標準化し、ナレッジやデータの形にして、それらをデジタル技術でつなぐことで、誰でもベテラン品質の設計ができ、さらにシミュレーション技術の活用による設計品質の高度化を目指した。

油機開発部門の取り組み:設計品質向上のための設計プロセス改革 油機開発部門の取り組み:設計品質向上のための設計プロセス改革 ※出典:小松製作所 [クリックで拡大]

 実は、以前にも何度かベテラン設計者がノウハウや知見を残そうと設計情報を整理しようと試みたことがあったが、「方法が分からない」「試行錯誤になって気力が続かない」といった壁にぶつかり、思うように進まなかった経験もあったという。

 しかし、「今回の設計プロセス改革では、プログレス・テクノロジーズが提供するソリューションの利用をきっかけに、この壁を乗り越えることができた。また、デジタル技術の活用については、ダッソー・システムズのソリューションを導入するなど、強力な外部パートナーの協力を得ながら、部門トップと設計現場が一体となって、設計プロセス改革に取り組んでいる」と横山氏は説明する。

 講演では、設計プロセス改革の具体的な取り組み事例として、(1)構想設計におけるシミュレーション活用事例(2)詳細設計におけるシミュレーション活用事例を紹介した。

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