課題山積の二輪車の電動化、ホンダはどう取り組むのか電気自動車(2/3 ページ)

» 2021年07月16日 06時00分 公開
[友野仙太郎MONOist]

 一方で、着脱式ならではの課題も少なくなかった。可搬型という特性から、車載時だけでなくバッテリー単体での被水や落下に対しての対策が必要となり、「筐体が損傷を受けても防水性損なわれないように、パック内部に防水構造を設けた」(チーフエンジニアの佐藤氏)という。落下対策については「外装筐体からセル、基板への衝撃を軽減するために内部に衝撃吸収構造を採用した」(同氏)。衝撃吸収構造もコンパクト化するに当たっては、衝撃吸収部材を追加せずにセルを保持するセルホルダー外部にスリットを設けることで実現しするなどさまざまな工夫を凝らした。さらに、「車載時の走行による内部共振を回避する必要がある。衝撃吸収と共振回避は相反する要素だった」(同氏)と開発当時の苦労を振り返った。

EVバイクの普及はインフラ整備もセットで

 EVバイクの本格普及には、商品開発だけでなく、インフラを含めた利用環境も整備する必要がある。ホンダは2019年から、フィリピンのロンブロン島で風力発電事業を手掛ける駒井ハルテックや、現地電力会社のロンブロン電力組合とともに再生可能エネルギーを活用したEVバイクの実証実験を進めている。駒井ハルテックが設置した風力発電機で発電し、余剰エネルギーをモバイルパワーパックに充電してEVバイクの走行エネルギーとして使用することでCO2排出量の削減を図る試みだ。

 ホンダはPCXエレクトリック100台とバッテリー交換ステーションを用意。EVバイク利用者にはスマートフォンを通して交換可能なステーション情報などを提供している。バッテリー交換ステーションの運転状況は常に監視しており、万が一のトラブルに備えて走行車両のモニタリングも実施しているという。なお、ロンブロン島の実証実験では、EVバイクは1日当たり平均40km走行し、使用したバッテリーは夜間8時間の充電により80kWhのエネルギー需要を創出した。チーフエンジニアの佐藤氏は「夜間の余剰電力で昼間の移動エネルギーを満たすことができている」と実証実験の成果を説明する。

 また、佐藤氏は「一般ユーザーにまでEVバイクを普及させるためには、商品の拡充だけでなく、バッテリー交換ステーションを数多く用意するとともに、どのメーカーのEVバイクでも利用できる利便性が求められる」とメーカーの垣根を超えた業界全体としての取り組みの必要性も指摘する。

 実際にバッテリーの共通利用の実現に向けた動きが進んでおり、ホンダ、ヤマハ発動機、スズキ、川崎重工業の日系二輪車メーカー4社は2021年3月に交換式バッテリーの標準化に合意。日本自動車工業会でも大阪府や大阪大学と連携してEVバイクの普及に向けた実証実験「e(ええ)やんosaka」を開始している。

ビジネス用途との親和性

 ホンダでは、環境意識の高まる企業ニーズに応える取り組みとして、ビジネス向けEVバイクの取り組みも強化している。ビジネスEVバイクの第1弾として2020年に投入したBENLY e:は、「毎日のデリバリーにちょうどいいビジネスe:スクーター」というコンセプトで開発。BENLYシリーズの特徴でもある配送業務に求められる取り回しの良い車体サイズを実現するためにコンパクトなEVシステムを設計し、エンジン車と同等のサイズを実現した。ライディングポジションも集配業務での疲労を軽減するアップライトなポジションを継承した。

ビジネス向けEVバイク第1弾として投入したBENLY e:(クリックして拡大) 出典:ホンダ

 ビジネスEVバイク第2弾として2021年に投入した「GYRO e:」は、ビジネス用電動三輪スクーターとして大型低床荷台を採用。重量物の積載に適した車体構造とし、EVシステムも積載時でも扱いやすい性能を実現した。

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