連載
» 2021年07月21日 10時00分 公開

2つのデライトとその評価方法、適用事例としてのフライパンのデザインデライトデザイン入門(5)(1/4 ページ)

「デライトデザイン」について解説する連載。連載第5回では、デライトのステージとして「見て触って分かるデライト」と「使って初めて分かるデライト」の2つを紹介するとともに、フライパンのデザインを例にこれらを評価するための方法を提案し、2つのデライトを満足させる解を導出する。

[大富浩一、山崎美稀、福江高志、井上全人/日本機械学会 設計研究会,MONOist]

 「デライト」には2つのステージがある。1つは“見て触って分かるデライト”、もう1つは“使って初めて分かるデライト”である。多くの場合は、前者のデライトで顧客は商品を判断、購入するが、必ずしも購入後の使用状態でもデライトが継続するとは限らない。だが、商品を提供する側としては、後者のデライトも満足させられるものを提供したいと考えているはずである。

 今回は、上記の2つのデライトについて紹介するとともに、2つのデライトを評価する方法を提案する。1つは既に連載第3回第4回で紹介した常套(とう)的手法による“見て触って分かるデライト”の評価、もう1つがシミュレーションベースの手法による“使って初めて分かるデライトの評価”である。この両者から2つのデライトを満足させる解を導出する。以上の評価手順をフライパンのデザインに適用した事例を紹介する。最後に、2つのデザインの視点から各種商品のデライトデザインを考察する。

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2つのデライト

 私たちが実際に商品を購入する状況を考えてみる。大きく分けると、「ネットで商品を見て、口コミも参考にして購入」「お店で見て触って購入」「お店で見て触って、さらに使って購入」の3つに分かれるのではないだろうか。

 ただ、“使う”といってもクリーナー(掃除機)であれば限定した条件で使ってみる、自動車であれば販売店の周辺を試乗するといった程度で、必ずしも顧客の実際の使用条件を満足させられるわけではない。筆者の一人は、ある有名ブランドの4万円程度のスピーカーをネットで購入した。実際に手にした状態も想定したデライトそのものであった。しかし、実際に音楽を聴いてみると低音が効き過ぎて周囲に迷惑を掛けることが分かった(低音は減衰が少なく壁をよく透過する)。さらに、音質の調整もできない(このブランドの考え方)ことも分かり、音量を落として楽しんでいる。

 このように状況によっては、見た印象と使った際の印象が異なる場合が少なくない。すなわち、一言で「デライト」といっても、図1に示すように“見て触って分かるデライト”と“使って初めて分かるデライト”の2つのデライトが存在する。

2つのデライト 図1 2つのデライト [クリックで拡大]

2つのデライトを評価する方法

 フライパンのデライトデザインを例に、2つのデライトを評価する方法について考える。フライパンのデザインに関しては、筆者の一人が大学の講義で演習問題として扱った経験がある。その際、実際のフライパンを3種類準備し、実際に手に取って評価グリッド法連載第3回で紹介)で印象評価を行った。その後、フライパンを自宅に持ち帰り、実際に使用してもらった後に、再度評価グリッド法による印象評価を行った。この結果、3つのフライパンの順番が使用前後で全く異なること、その理由として「料理が楽しい」「焦げにくい」「味・匂いが残らない」といった実際に使ってみないと分からない要因があることが確認できた。

 これらの結果は、見て触って分かるデライトだけでなく、使って初めて分かるデライトの評価が重要であることを示唆している。しかし、実際に使用して購入を決めることは現実的ではないので、これに代わる手段が必要である。そこで、使用時のフライパンの状況をシミュレーションで予測することを考えた。使用前後の印象評価の結果を見ると、使用後の印象として伝熱特性に関するものが多かったので、伝熱シミュレーションにより“使って初めて分かるデライト”の評価を行うことにした。すなわち、図2に示すように見た目、持ちやすさなどの“見て触って分かるデライト”の評価はSD(Semantic Differential)法による常套的手法で行い、伝熱特性に関する“使って初めて分かるデライト”の評価はシミュレーションベースの手法で行い、この両者の結果から2つのデライトを満足させる解を探索することにした。

2つのデライトを評価する方法 図2 2つのデライトを評価する方法 [クリックで拡大]
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