連載
» 2021年08月25日 10時00分 公開

「1DCAE」の考え方に基づくデライトデザインデライトデザイン入門(6)(1/3 ページ)

「デライトデザイン」について解説する連載。連載第6回では、「1DCAE」によるデライトデザインについて詳しく紹介する。まず、1DCAEについて3つのデザインとの関係を含めて説明。次に、デライトデザインに1DCAEを適用する手順について事例を交えて解説する。最後に、技術者に依存するところの大きい価値創出を支援する考え方を取り上げる。

[大富浩一、山崎美稀、福江高志、井上全人/日本機械学会 設計研究会,MONOist]

 これまでに、「デライトデザイン」を取り巻く背景、デライトデザインの方法、いくつかの適用事例について紹介した。デライトデザインはマストデザイン、ベターデザインと比較すると目標とするところが必ずしも明確ではない。これは“デライト”という言葉から連想するものが多様であることからも理解できる。このような背景の下、デライトデザインを戦略的に行うために「1DCAE」の考え方を導入する。

 最初に、1DCAEについて3つのデザインとの関係も含めて説明する。続いて、デライトデザインに1DCAEを適用する手順(リバース1DCAE⇒1DCAE)について事例を交えて紹介する。すなわち、リバース1DCAEで“構造⇒機能”の分析を実施し、これを基に価値創出を行い、そこを起点に1DCAEによって価値の具現化を行う。価値創出は技術者に依存するところ大であるが、ある程度基本となる考え方があると参考になる。そこで、最後に価値創出を支援する考え方について説明する。

※)「ものづくり」の表記について:MONOistでは「モノづくり」で表記を統一していますが、本連載では「もの」と「モノ」の違いを重視していることから「ものづくり」としています。

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現状のデライトデザインの課題

 本連載で、いくつかのデライトデザインの事例を紹介した。構造がシンプルであるため設計研究の例題によく使用されるドライヤー(髪を乾かす装置)については、持ちやすさ、見た目が重要であることが分かった(連載第3回)。クリーナー(掃除機)の音のデザインについては、従来の低騒音化から視点を変えて音に価値を与えることを試みた(連載第4回)。フライパンの事例では、顧客視点と性能視点の両方からデライトデザインを実施した(連載第5回)。

 いずれもそれなりの成果を挙げることができたが、技術者視点、すなわちシーズを前提としたデライトデザインであったように思う。この結果、デライト度合いの大幅な向上の達成はできていないと感じる。このようなアプローチの場合、製品としてはうまくいっても、商品としては不十分、すなわち売れない商品となる可能性がある。そこで、開発した製品が顧客の要求(ニーズ)に合っているのかどうかも含めて、売れる確率を上げるための何らかの戦略、考え方が必要となる。それが1DCAEという考え方である。

1DCAEとは?

 1DCAEとは、上流段階から適用可能な設計支援の考え方/手法/ツールであり、日本機械学会設計研究会での議論を通して、2008年ごろに提案、以降継続的に啓蒙(けいもう)実践活動を行っている(参考文献[1][2])。ここでの「1D」とは、特に1次元であることを意味しているわけではなく、物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現することを意味する。1DCAEにより、設計の上流から下流までCAEで評価可能となる。

 1DCAEでは、製品設計を行うに当たって(形を作る前に)機能ベースで対象とする製品全体(もの/人/場)を漏れなく表現し、評価解析可能とすることにより、製品開発上流段階での全体適正設計を可能とする。全体適正設計を受けて(この結果を入力として)個別設計(形を作る)を実施、個別最適設計の結果を全体適正設計に戻しシステム検証を行う。

 図1に、3Dを起点とした従来のものづくりを示す。形から入るために、3D CAD、3D CAEといった設計ツールが活用できるといった利点があり、類似設計、改良設計に効果を上げている。一方、従来の製品の枠を超える革新的な製品の開発には対応しづらいといった課題があった。

3Dを起点としたものづくり 図1 3Dを起点としたものづくり [クリックで拡大]

 そこで、図2に示すように設計のより上流である概念設計、機能設計(構想設計という場合もある)からスタートするのが1DCAEである。すなわち、従来のものづくりは形から入っていたが、“1DCAEでは機能から入る”ことを特徴とする。機能から入るということは、機械だけでなく製品を構成する全ての要素(電気、ソフトウェア、製造性、コスト、他)を対象とすることを意味する。また、機能段階では一般的に形状を有さないため、3D CAEに代わるモデリング手法、評価手法が必要となる。ここでは、1DCAEを表現するモデルを「1Dモデル」と呼ぶことにする。

1DCAEの考え方に基づくものづくり 図2 1DCAEの考え方に基づくものづくり [クリックで拡大]

 図3に、1DCAEと3D CAEの関係を示す。1DCAEで機能レベルでの全体適正設計を実施し、その結果が3D CAEでの形レベルの個別最適設計の入力(機能から形への仕様)となる。さらに、3D CAEの結果を1DCAEに戻して全体適正設計での妥当性検証を行う。このように、1DCAEと3D CAEはそれぞれ独立して存在するものではなく、相互に補完関係にあることが分かる。ただし、重要な点は“1DCAEがものづくりの起点である”ということである。図3の全体を「広義の1DCAE」、1DCAE部分を「狭義の1DCAE」と呼んでいる。

1DCAEと3D CAEの関係 図3 1DCAEと3D CAEの関係 [クリックで拡大]

参考文献:

  • [1]大富他、1DCAEによるものづくりの革新、東芝レビュー Vol.67 No.7、2012
  • [2]日本機械学会、1DCAEのWebサイト

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