エッジコンピューティングの逆襲 特集

Android対抗の「Tizen」から派生した「TizenRT」はRTOSらしくないRTOSリアルタイムOS列伝(14)(3/3 ページ)

» 2021年08月31日 10時00分 公開
[大原雄介MONOist]
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定義的には間違いなくRTOSだがあまりRTOSらしくない

 図4がTizenRTのブロック図だ。御覧の通り随分いろんなものが入っている。もちろんこれらが全て搭載されるわけではない(例えば、Audio I/Fを持っていないハードウェア上でAudio FrameworkやAudio Coreをインストールする意味はない)が、ネットワーク関連のコアやスタック類はほぼ標準で載ることを考えると、それなりのメモリフットプリントは必要になる。

図4 図4 「TizenRT」のブロック図(クリックで拡大)

 冒頭では2MB未満のSRAMで動作と書いたが、実際にサポートされているハードウェアは以下のようになっている。

  • Samsung ARTIK053/ARTIK053S/ARTIK055S(Cortex-R4 320MHz、1408KB SRAM/8MB Flash)
  • Infineon CY4390X(Cortex-R4 320MHz+Cortex-R4 160MHz、2MB SRAM/640KB Flash)
  • Espressif ESP32-DevKitC(ESP32 240MHz、8MB SRAM/8MB Flash)
  • Espressif ESP-WROVER-KIT(ESP32 240MHz、8MB SRAM/8MB Flash)
  • iMX RT 1020 EVK(Cortex-M7 500MHz、32MB SRAM/8MB Flash)
  • iMX RT 1050 EVK(Cortex-M7 600MHz、32MB SRAM/64MB Flash)
  • SIDK_S5JT200(Samsung Exynos i T200ベース開発ボード、Cortex-R4 320MHz+Cortex-M0+ 320MHz、1.4MB SRAM/Flash容量不明)
  • STMicro STM32F407-DISC1(Cortex-M4 168MHz、192KB SRAM/1MB Flash)
  • STMicro STM32F429I-DISCO(Cortex-M4 180MHz、256KB SRAM/2MB Flash)
  • STMicro STM32L4R9AI-DISCO(Cortex-M4 120MHz、640KB SRAM/2MB Flash)
  • QEMU

 InfineonのCY4390XやExpressifのESPボードで異様にメモリが多いのは、オフチップSRAM/Flashを搭載しているためで、オンチップだともっと容量は少ない。それはともかく、最低構成はSTMicroのSTM32F407-DISC1なので、ギリギリまで詰めれば192KB SRAM/1MB Flashでも動作するというあたりだが、アプリケーションがどの程度まで動くのかは未知数である。現実問題としてはもう少し余力があるハードウェアの方が好ましいだろう。

 OSの構成そのものはNuttXを引き継いでいるため、主要な特徴は似たようなものだが、一番異なるのがソフトウェア環境だろう。Dockerイメージの形で開発環境が用意されており、これをロードして立ち上げるだけで利用できる。また、Linux環境との互換性が高いため、RTOS上でアプリケーションを構築するよりも、既に存在するLinuxベースのアプリケーションのサブセットを移植する、といった使い方が非常に容易になっている(というよりも、それを志向しているように見える)。上位機種はTizenベースで構築するが、低価格のサブセットは不要な機能を減らしてTizenRTで動かす、なんて意図の下で開発されたように感じられる。

 これがRTOSか? といわれると、定義的には間違いなくRTOSなのだが、あまりRTOSらしくないのがTizenRTである。

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