工業が縮小する工業立国である日本、歪な「日本型グローバリズム」とは「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(7)(4/7 ページ)

» 2021年09月06日 11時00分 公開

企業の多国籍化で置かれた日本の特殊な状況

 さて、ここであらためて企業活動の多国籍化について考えてみたいと思います。企業の多国籍化を考えた場合、本来は2つの方向性で行われるべきです。2つの方向性というのはすなわち、自国企業の他国への海外進出(流出: Outward Activity)と、他国企業の自国への進出(流入: Inward Activity)です。

 「流出」は、自国企業が他国で現地国民を雇い、生産活動を行い(付加価値の創出)、利益を上げて税金を納めます。そして、利益の一部を本社企業へと還流するというものですね。日本と現地国での関係で見れば、企業活動に付随する付加価値(GDP)、雇用、税収は現地国のものとなり、利益の一部として本社企業に還流したものが日本のものとなります。

 一方で、他国企業が自国へ進出してきた「流入」の場合は、自国民が雇用され、自国での生産活動が行われて、自国へ納税され、利益の一部が配当金として他国へ還流していくという仕組みとなります。

 本社企業へ還流する「利益」と、現地国で行われる「生産活動」のどちらを重視するかで、「流出」や「流入」のイメージは変わると思いますが、本稿では後者を重視します。

 実は日本は、日本企業の他国への流出は盛んですが、他国企業の日本への流入がほとんどない特殊な状況です。特に製造業でその傾向が顕著なようです。実際に統計データ(ファクト)で確認してみましょう。図7は各国の多国籍企業(製造業)の本社所在国以外での売上高(流出)を並べたグラフです。

photo 図7 2018年の多国籍企業(製造業)における「流出」売上高の各国別比較(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 大きい順から米国、日本、ドイツとなっており、各国の経済規模に応じたような順位になっていますね。日本は米国に次いで2番目に大きな水準で、1037G(ギガ)ドル(約120兆円)の売上高を海外で行っていることになります。Gは10の9乗の意味となります。

 一方、図8は、当該国以外の多国籍企業の進出による「流入」売上高のグラフです。他国からどれだけの事業が自国に進出してきているかが分かります。

photo 図8 2016年の多国籍企業(製造業)における「流入」売上高の各国別比較(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 米国(1682Gドル)やドイツ(667Gドル)はやはり大きな数値ですが、日本は103Gドル(約12兆円)でこれらの国と比べると格段に小さな水準で、全体では13番目と中位に属します。日本は明らかに流出に対して、流入が少ないといえます。

 この差異を分かりやすく図示したのが図9となります。こちらは売上高についての流入と流出の差額です。

photo 図9 2016年の多国籍企業(製造業)における流入と流出の差額(正味)の各国別比較(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 正味ではプラスの国もあればマイナスの国もあります。プラスの国を見るとカナダやイギリスの他では、ハンガリーやポーランドなど比較的新興地域の国が多いように見えます。一方で、マイナスの国はイタリア、ドイツ、フランス、米国、日本などです。特に日本は、流出が2番目に多い水準だった割に、流入が極端に少ないため、正味では米国を抑えて最もマイナス額が大きい国となっています。このように日本は、企業の多国籍化によるグローバル収支で見ると、大きくマイナス(流出過多)の状況にあることが分かります。

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