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» 2021年09月14日 09時00分 公開

取引事実を公表したがるスタートアップ、どんなNDAを結ぶべきなのかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(2)(2/4 ページ)

[山本飛翔,MONOist]

「目的」は過不足なく定めるべき

 ここからはスタートアップとのNDA締結に関して、その具体的な方法を解説していきます。

 まずは秘密保持契約の「目的」の作成です。目的については契約の前文などで定義されることがあります。しかし、秘密情報の目的外使用を禁止する条項を入れる場合には、秘密情報の使用が許される範囲の解釈に影響を及ぼす可能性に注意すべきです。

 特に秘密情報を開示する側は、自社の秘密情報の目的外使用を効果的に禁ずるべく、目的を過不足なく定める必要があります※3。なお、共同研究開発に進むかを検討する段階において締結される秘密保持契約では、共同研究開発の結果、いかなる製品/サービスが開発されるのか、いかなる事業が実施されるのかが明らかではありません。このような場合においては、「X社が保有する●●という技術を用いたY社の製品開発の可能性を検討する目的」と定めることが考えられますが、この場合には、目的内使用の範囲は相当程度限定されることに双方留意しなければなりません。

※3:例えば、経済産業省「モデル契約書 ver1.0 秘密保持契約書(新素材)」の前文の解説には、以下の記載がある。「例えば、目的を『新規素材αを用いた放熱部材の開発について検討するに当たり』と定めた場合、事業会社が受領した秘密情報を、事業会社で独自に計画する『新規素材αを用いた放熱部材の開発』に用いることも契約上は『目的内』と解釈されるおそれがあり、その場合には、かかる行為を差し止めることはできない。かかる行為を禁止するためには、『新規素材αを用いた放熱部材について、スタートアップおよび事業会社が共同で開発することを実現できるかについて検討するにあたり』等の記載とすることが必要である」(同契約書より引用)。

 事業連携指針においては、「連携事業者が、NDAに違反してスタートアップの営業秘密を盗用し、スタートアップの取引先に対し、スタートアップの商品・役務と競合する商品・役務を販売することにより、スタートアップとその取引先との取引が妨害される場合には、競争者に対する取引妨害(一般指定第14項)として問題となるおそれがある」(事業連携指針より引用)との指摘があります。このような事態を秘密情報の目的外使用として確実に捕捉するためにも、目的を過不足なく明確に定めることが大切です。

 例えば、経済産業省・特許庁が公開したモデル契約書(新素材分野)では、秘密保持契約前文が以下のように定められています。

X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲が開発した放熱特性を有する新規素材αを自動車用ヘッドライトカバーに用いた新製品の開発を行うか否かを甲乙共同で検討するに当たり(以下「本目的」という。)、甲または乙が相手方に開示等する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。

※甲=スタートアップ、乙=事業会社

何を「秘密情報」と定義するか

 続いては秘密情報の「定義」です。何が秘密情報に該当するか、その線引きが問題となります。まずは秘密情報の分類について、少しご紹介します。

(1)主に秘密保持契約やその後検討する取引に関するもの

  • 秘密保持契約の存在
  • 秘密保持契約の内容
  • 秘密保持契約を締結して検討する取引に関する交渉の存在および内容

(2)主に当事者が開示する情報に関するもの

  • 秘密の指定の要否
  • (秘密指定を要するとした場合)口頭で開示した情報の、事後的な秘密指定の要否

 また、これらに加えて「秘密情報から除かれるもの」についても解説したいと思います。

(1)主に秘密保持契約やその後検討する取引に関するもの

 秘密保持契約の存在やその内容を秘密情報として、守秘義務を課すこと自体には異論がない人がほとんどでしょう。問題となるのは取引に関連した交渉の存在や内容の扱いです。

 ある取引を進めるか否かを検討すべく秘密保持契約を締結する場合、スタートアップが当該取引の検討に入った事実の第三者への開示を望む場合があります。ここで第三者というのは、例えば、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家です。スタートアップは投資家から短期間の間に資金調達を繰り返し、大きな利益創出を目指します。しかし、多額の資金獲得は容易ではありません。特に創業後の初期フェーズでは、赤字状況にあることが普通です。

 そのため、大企業との協業実績などを用いて将来のキャッシュフローの道筋を示したいという要望を持つスタートアップは少なくありません。また、社歴の浅いスタートアップにとって、大企業との協業は自社のブランディングの観点からも重要です。スタートアップにとって大企業など事業会社とのアライアンスを検討開始したという事実は、投資家やユーザーへの効果的なPR材料になる場合が多く、事実公表を望むケースが多くあります。このため、秘密保持契約の締結時に取引や内容が秘密情報に含まれるかが問題となるのです。

 なお、後述のように、秘密保持契約を締結して検討する取引に関する交渉の存在や内容を秘密情報に含めたとしても、秘密保持義務の例外の条項において、契約の相手方の同意なく公表できる事実(例:甲乙間で、●●についての共同研究開発の検討が開始された事実)をあらかじめ定めておくケースも考えられます(この点について別項の「秘密保持義務の例外」で詳述します)。

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