「コンサル型エンジニアリング」という新しい発想凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで(3)

ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第3回は、派遣エンジニアとして転職したVSNで新たな施策として打ち出された新サービス「バリューチェーン・イノベーター(VI)」の当初の状況について紹介する。

» 2021年09月29日 09時30分 公開

 メーカーを辞めて転職したVSNに愛着を感じるようになったのは、入社後半年くらいしてチームリーダーになってからでした。その当時、VSNではチームリーダーは社命ではなく、やりたい人が手を挙げて就く仕組みになっていました。自ら立候補してチームリーダーになってみると、そのポジションに就いた途端に見える景色が大きくと変わったことを感じました。チームリーダーは会社の経営に参画することができるので、業績に関わる数字を見ることができますし、経営層の考えをじかに聞くこともできます。一気に視界が開けて、会社の業績向上に貢献したいという気持ちが沸々と湧き上がってきました。

 その頃、業績挽回策のソリューションとして推進されていたのが、前回触れた「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」という新しいサービスです。当時、クライアント側の業績悪化でエンジニアの派遣契約が次々に終了していましたが、その中でも契約が継続しているエンジニアが何人かいました。この厳しい状況の中で契約が続いているのはどんなエンジニアなのか──。それを検討・分析する結果生まれたのがVIです。

⇒連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」バックナンバー

エンジニアの職分からはみ出すサービスを

 そういったエンジニアに共通しているのは、現場からクライアントの課題を見つけ、その解決策を提案することによってバリューチェーンを改善し、クライアントの業績向上に寄与するというスタイルで仕事をしていることでした。言ってみれば、エンジニアの職分をはみ出して、能動的にクライアント内の経営課題や組織課題に関わっていくようなスタイルです。これを「課題解決型=コンサルティング型エンジニアリングサービス」として提供しようというのがVIの始まりでした

 このアイデアは現場のエンジニアから出されたものです。その頃、現社長の川崎が就任したばかりでしたが、川崎は業績挽回の施策を考えるプロジェクトにあえて経営陣を入れませんでした。現場の自由な発想と自由な議論から、これまでにない新しい視点が生まれることに期待したからです。そうして出されたVIのアイデアを聞いて、川崎はそれを即座に採用し、中期経営計画に加えました。それはほとんど直観のようなものだったと思います。

 しかし社員の多くは、当初VIに対して非常に冷ややかな態度をとっていました。取りあえずやってみるだけやってみて、ダメだったらすぐにやめるだろう。そのくらいの感覚です。私自身は、「いいアイデアだし、本当にそれが実現するならすごいけれど、課題解決の提案力のあるエンジニアなどいない」と考えていました。もちろん、私自身にもその能力があるとは全く思えませんでした。

 VIがスタートしたのは2010年でしたが、事実、最初の2年間は全く成果が出ませんでした。当時、VSNには2000人を超えるエンジニア社員がいて、その全員がVIへのチャレンジを課されていましたが、2年間でVIのサービスをクライアントに提供できたのは、ほんの数件に過ぎませんでした。社員の多くが、VIにかける気持ちも、それを実現する能力もなく、やり方も分からなかったことを考えれば、当然だったと思います。

 それでも、川崎はVIを断念しようとはしませんでした。川崎はVIには3つの役割があると考えていました。クライアントの業績を向上させること、社員たちに会社への誇りを取り戻させること、そしてエンジニア業界に新風を吹き込むことです。

 エンジニア派遣会社は、差別化要素がなければ、価格競争を戦う他なくなります。そうするとエンジニアは安い金額で派遣されるようになり、プロとしての誇りも、会社に対する誇りも持てなくなります。エンジニア業界全体が価格競争に陥れば、「安かろう悪かろう」という業界のイメージが定着してしまいます。VIにはそういった問題を解決する力がある。川崎はそう信じ、その信念を決して曲げませんでした。

 しかし、信念だけでは成績を上げることはできません。VIにはポテンシャルがある。ではそれを価値に変えていくにはどうすればいいのか。「社員がコンサルティングを本気で学ぶこと」──。それが一つの答えでした。

筆者プロフィール

桑山和彦(株式会社VSN コンサルティング事業部 事業部長)

photo

通信機器メーカー勤務後、リーマンショックを機に株式会社VSNに転職。入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜てき。多くの企業で現場視点と経営視点の両面を併せ持った問題解決事案に携わる。現在は、全社的にVIサービスを推進するコンサルティング事業部の事業部長として、企業のバリューチェーン強化、DX推進、人事組織開発について実践的なコンサルティングサービスを推進。VSNのコンサルティング領域拡大をリードしている。

Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.