AWSの考えるロボットは「データを基に計算し実際に行動を起こすもの」ロボットイベントレポート(2/2 ページ)

» 2021年10月01日 10時00分 公開
[長町基MONOist]
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クラウドによる機能拡張が可能な「AWS RoboMaker」

 AWSは2018年11月のイベント「AWS re:Invent 2018」においてAWS RoboMakerを発表した。大規模なロボットアプリケーションを簡単に作成できるサービスであり、その特徴の一つはクラウドによる機能拡張だ。AWSのクラウドにロボットを安全につなげられるので、開発者はロボットの機能向上のためにさまざまなサービスを利用できる。新たなハードウェアやソフトウェアの追加は不要で、全てはクラウド上で行われる。

 また、ロボットシミュレーションサービスを提供し、アプリケーションのテストを高速化する。さらに、フリート管理サービスにより、リモートからアプリケーションをデプロイして管理ができる。AWS RoboMakerに登録されたロボットが稼働している際に、サービスに接続してロボットを選び、ロボットのアップデートや位置と動きの確認などが行える。フリート管理を使えば稼働中のロボットの管理も可能だ。

 例えば、高齢者や障害者が利用するRCS(Robot Care Systems)の歩行支援ロボット「Lea」は72のセンサーを持つ。その大半のセンサーは低価格製品だ。センサーは主に利用者の安全を守るためにあり、顧客を保護するために働く。Leaは安価なCPUを搭載することでコストを抑える一方で、クラウドによる機能拡張を行っている。それは、Leaの利用者から音声インタフェースを求める声が多かったためだ。例えば、離れた位置にあるLeaを呼び寄せて立ち上がって移動するのに利用したいという要望があった。また、Leaの開発メンバーはリアルタイムモニタリングの追加を望んだ。それは、医師や家族などがLeaを通じて店頭などの事故を見逃さずに済むよう、利用者の様子をリアルタイムでみられるようにするためだ。ライブビデオストリーミングへの要望もあった。利用者と自然にやりとりできるからで、使用中に医師や家族と会話できる。

 その一方で、クラウドやビデオストリーミングに関してLeaの開発メンバーの経験が浅いという問題があった。また、Lea内蔵のコンピュータの性能や開発リソースの確保も課題になっていた。そうした顧客がAWS RoboMakerのクラウド機能拡張を利用している。Leaの開発メンバーは、クラウドによる機能拡張を行うためにROS(Robot Operation System)をインストールした。また、音声によるインタフェースを数時間で実装した。これらを実現できたのは、ディープラーニング技術を用いたテキスト音声変換サービス「Amazon Polly」と、音声やテキストを使用して対話型インタフェースを構築するサービス「Amazon Lex」を活用できたからだ。Amazon Lexが音声を認識してテキストに書き起こし、Amazon Pollyがテキストから音声に変換する。その他にも、ライブモニターや警告の仕組み、ライブビデオストリームの機能を数日で実装することができた。Leaの開発メンバーは追加費用をかけずに有用性を高められたとしている。

 このように、クラウドとの安全な接続のためにクラウドによる機能拡張を活用し、ソフトウェアを追加することなくロボットを強化できる。また、これらのクラウドは、ロボットを生産するたびにアップデートする必要もないなど、管理やアップデートの面で利点がある。

 シミュレーションはロボット工学においてはさまざまな方法で活用されており、現実世界や仮想的状況をコンピュータ上に構築できる。顧客がロボットを試すのはもちろん、開発者はシミュレーションの変数を変更するなどして、システムのふるまいを仮想的に試験することが可能だ。AWS RoboMakerもシミュレーションを提供している。構成や管理のためのインフラは不要で複数のシミュレーションを同時に行え、複雑さに応じたオートスケールとなっている。顧客は消費したリソースに応じた料金を支払うことになる。例えばドローンの場合、変えられるのは風向きや風速などさまざまな状況を想定したテストを同時に実行でき、結果はログファイルに記録され、シミュレーションの問題点をログファイルで確認する。「そして何が起きたかを正確に把握してデバッグを行う」(バーガ氏)。

 この他、2020年8月に発表した「AWS RoboMaker WorldForge」を活用すれば、シミュレーション環境の作成がより簡単になり、時間短縮にもつながる。利用コストも抑えられるようになるという。

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