特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

電動車100%へ330億円を投資した日産・栃木工場、開発中の燃料電池は定置用で活躍電気自動車(1/4 ページ)

日産自動車は2021年10月8日、330億円を投資して栃木工場(栃木県上三川町)に導入した次世代の自動車生産の取り組み「ニッサンインテリジェントファクトリー」を公開した。日産自動車 執行役副社長の坂本秀行氏は「複雑かつ高度なクルマをつくるための、変動に強い生産現場と生産技術は明日の日産の飛躍の要になる」と生産領域に投資する重要性を語る。

» 2021年10月12日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 日産自動車は2021年10月8日、330億円を投資して栃木工場(栃木県上三川町)に導入した次世代の自動車生産の取り組み「ニッサンインテリジェントファクトリー」を公開した。日産自動車 執行役副社長の坂本秀行氏は「複雑かつ高度なクルマをつくるための、変動に強い生産現場と生産技術は明日の日産の飛躍の要になる」と生産領域に投資する重要性を語る。

 EV(電気自動車)の新型車「アリア」は、車両への部品組み付け、塗装と外観検査、大幅に増加したECUへの書き込み、駆動用モーターの巻線生産などを、ニッサンインテリジェントファクトリーの生産技術を取り入れたラインで行う。また、設備の稼働状況や異常などを監視する集中管理室を設けた他、作業者向けの訓練でスマートグラスを活用して習熟期間を短縮するなど、デジタル技術を活用していく。

 今後は栃木工場に導入した生産技術や設備を他工場にも展開する。ニッサンインテリジェントファクトリーによる生産効率向上に加えて、生産設備の電化や、再生可能エネルギーや代替燃料による電力の適用を拡大することによって、工場のCO2排出低減も推進する。工場から排出するCO2は2030年に2019年比41%減とし、2050年にはカーボンニュートラル達成を目指す。

クルマの技術進化と生産工程で足並みをそろえる

 ニッサンインテリジェントファクトリーの構想は2019年11月に発表した。当初から、高度なADAS(先進運転支援システム)の搭載やパワートレインの多様化など生産の難易度アップへの対応を目的としていた。

 ただ、コロナ禍で、多人数が生産ラインに集まらなければ作業できないことへの懸念が強まった。半導体をはじめとする部品の供給不足や物流の乱れなどの予期せぬ事態に柔軟に対応することの重要性が高まっている。また、コロナ禍で実際に起こったケースだが、活動の制限などで低迷した需要が回復した際に生産量をいち早く引き上げ、機会損失をなくすことも課題となった。

新型EV「アリア」を栃木工場で生産する[クリックで拡大]

 生産の難易度を上げる自動車の高度化は「リーフ」の現行モデルとアリアの比較にも表れているという。例えば、搭載するECUはリーフの36個に対しアリアは78個で倍増。CAN信号数はリーフの3600からアリアは9500で2.5倍に増えている。これまでは、仕様の違いによって異なる制御プログラムを生産ラインでECUに書き込んでいたが、「PCとの有線接続で書き込むやり方では、ECU搭載数の増加やクルマの知能化に対応しきれない。今回、ワイヤレスの書き込み端末を導入し、書き込みデータ容量の増大に対応して通信は従来の20倍に高速化した(10Mbps)。工場はノイズが多いため、安定した書き込みに苦労した」(坂本氏)。

 また、アリアはバッテリーが容量90kWhと65kWhの2種類あり、駆動方式もそれぞれのバッテリー容量で2WDと4WDから選択できるため、リーフよりもバリエーションが増える。さらに、今後は2030年代の早い段階で日米欧中の新型車を全てEVもしくはHEV(ハイブリッド車)とするため、車両サイズや駆動方式、バッテリー容量がさまざまな電動車を組み立てる必要がある。

 ニッサンインテリジェントファクトリーは、こうしたクルマの進化や多様化への対応を念頭に、数年がかりで開発した生産技術で構成されている。

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