航空産業で高いポテンシャルを秘めるサプライヤーとしての日本企業異色の日本人社長が見た米国モノづくり最前線(3)(1/2 ページ)

オランダに育ち、日本ではソニーやフィリップスを経て、現在はデジタル加工サービスを提供する米プロトラブズの日本法人社長を務める今井歩氏。同氏が見る世界の製造業の現在とは? 今回は「航空宇宙産業」に光を当てる。

» 2021年12月08日 10時00分 公開

はじめに

 一口に「航空宇宙産業」と言いますが、「航空産業」と「宇宙産業」というのは全くの別物という気がしています。共通点があるとすれば、開発プロセスの長さと安全性への要求度の高さでしょうか。飛行機もロケットも実験に実験を重ねて何度もテストを繰り返し、全ての記録を残して安全性と効率のバランスを極限まで追い求めます。その厳密さは他分野と比べようがないほどです。

 筆者は子供の頃から飛行機に乗るのが大好きでしたので、どちらかといえば航空産業びいきです。宇宙産業については、衛星通信や地球観測は別として、話題の有人宇宙旅行のような宇宙ビジネスで採算をとるのは至難の業だと考えます。

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利用者80億人の市場へ

 「採算」という意味では、航空産業の方も決して楽ではありません。航空機を作るにしても、運用するにしても利益を出すのがとても難しい状況にあります。昨年(2020年)、国産旅客機の夢を背負って続いていた「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet/旧:MRJ)」の開発プロジェクトが事実上凍結されました。それもこの事業の難しさを物語っているといえるでしょう。

 航空機開発というのは第二次世界大戦時に活気づき、日本でも零式艦上戦闘機(略称:零戦)をはじめ多くの機種が作られましたが、敗戦によって研究自体が禁じられ、欧米に大きな後れを取ることになりました。そして、朝鮮戦争の頃、米国戦闘機の修理や部品供給をきっかけに国内でも三菱重工業や富士重工業(現:SUBARU)などによる航空機開発が再開しますが、ビジネスとしてはそれほど成功していないような気がします。現在、航空機開発といえば防衛関連を除いて、Airbus(エアバス)やBoeing(ボーイング)などへの部品供給が主なものとなっています。

 ただ、航空機市場自体は今後20年で大きく成長するともいわれています。今業界はコロナ禍によって大打撃を受けていますが、民間の旅客貨物の需要は今後年率4%で伸びて、現在の倍近くになるという予測もあります。現在、世界の航空機利用者は延べ40億人ほどですが、今後は中国国内やアジア太平洋地域の利用者が増加し、80億人を突破するとみられています。

民間航空機に関する市場予測 2020−2039 図1 民間航空機に関する市場予測 2020−2039[クリックで拡大] 出所:日本航空機開発協会

国内の航空産業のポテンシャル

 世界の民間航空機市場は、ボーイングとエアバスの2大巨頭が互いにシェアを分け合う構図になっています。一方、国内の航空産業の立ち位置は、そうしたプライムメーカーへのティア1サプライヤーで、機体構造やエンジン部品では三菱重工業、川崎重工業、IHI、SUBARU、装備品ではソニーや三菱電機、小糸製作所、横浜ゴムなどが活躍しています。

 「ボーイング787 ドリームライナー」の軽量化と燃費改善に貢献した東レの炭素繊維「トレカ」の事例などは、サプライヤーとしての日本企業のポテンシャルを示しているように思えます。今後の市場の拡大とともに、部品や装備にさらに高い品質や新技術が求められるようになれば、日本企業にも大きなビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。

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