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ポメラのメカ設計〜日中をつなぐ3次元モデル隣のメカ設計事情レポート(3)(1/4 ページ)

デジタルメモツールの「ポメラ」を設計したのは、文房具メーカーのキングジム。機械設計者がいない同社の開発チームの力になったのは、中国・香港のメーカーだった!

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 電子メモツールの「ポメラ」をご存じだろうか。インターネットにつなぐことはできないし、辞書も付いていない、純粋に文章を書くだけのためのツールで液晶画面と折りたたみ式キーボードが合体したようなものだ。

 開発したキングジムでは、初年度の販売目標台数を3万台としていた。それをいざ市場に出してみると、9万台超えの大ヒット(2009年12月現在)。

 初代モデル「DM10」(2008年11月10日発売)が出てから約1年後、2009月11月25日には、液晶サイズが大きくなったモデル「DM20」が登場した。DM20のキーボードの色は、黒。ちなみに従来モデル DM10のキーボードは白で、メモ帳の白い紙をイメージしたとのこと。DM10のキーボードの機構そのものは、そのままDM20でも使われた。高級感をかもし出すために、DM20ではキー色が黒になったとのこと。


左がDM10、右がDM20

 記者自身も取材メモや議事録作成などでDM10を愛用しているが、ノートパソコンに比べて軽量でかさばらないこと、電池が長持ちすること、テキスト入力に集中できること(メールに翻弄されたり、余計なネットサーフィンをしたりしなくて済む)ところが利点だと思っている。

 製品そのものに関する情報は、「いきなりグフまで行っちゃった――新型ポメラ「DM20」は化け物か」(誠 Biz.ID:仕事耕具)でご覧いただきたい。ポメラをよくご存じない方は、以降の記事をより楽しむために、まずはこちらで製品に関する知識を。


キングジム 電子文具開発部 開発二課 立石 幸士(たかし)氏

 ここでご登場いただくのは、(上記の記事と同様に)キングジム 電子文具開発部 開発二課 立石 幸士(たかし)氏。

 立石氏は設計者ではなく、企画担当者。同氏は、3次元CADによるモデリングや製図ができるわけではない。同部署の技術者 佐久間 学氏も、その専門は回路設計。キングジムのポメラ開発チームには、機械設計を専門としてきた技術者がまったくいないのだ。

 キングジムといえば、あの分厚いドキュメントをとじるごつい紙ファイルを思い浮かべるだろう。同社は文房具メーカーであって、家電・OA機器メーカーではない。ゆえにキーボードの筐体・機構設計の設計ノウハウは社内に皆無だった。もちろん、キーボードが設計できる機械設計者もいない。企画なら同社でできるものの、機構設計についてはキーボード開発の経験豊かな協力会社に頼らざるを得なかった。

 この部分をカバーするべく大きな力となったのは、やはり外部の協力会社だった。しかもこの協力会社というのは、日本国内のメーカーではない。

生産だけではなく

 ポメラの生産については製品の筐体裏に示されているように中国だが、設計の一部も中国だ(以下ではこの協力会社を「A社」と仮に呼ぶ)。

 ポメラの生産は少ないロットを見込んでいたために、大きなロットの受注を前提とする国内のメーカーとはコストなどの条件が合わず、海外のメーカーにアタックすることになった。今日ではキーボード開発のメッカともいわれる台湾のメーカーで模索を試みたが、結局、中国・香港に本社を置くメーカー A社へ落ち着いた。

 A社は、日本のメーカーからもキーボード設計・生産を受注している経験豊富で技術力の高いメーカーだという。通常、A社では、メーカーから完ぺきな仕様書を託されたうえで、詳細設計や製造を行う。だが、キングジムにはそのような仕様書を用意することは不可能だった。

 キングジム側の開発メンバーは、一般的な家電・OA機器メーカーから見てしまえば、いわば素人……。しかし、企画に込めた思いは、どこのメーカーにも負けないぐらい、強い。技術がないからといって、協力会社のいいなりになってしまうような状況も少々不本意だ。

 その一方、A社の技術者だって、やはり人の子。完ぺきな仕様書をもらい、いわれたことをやるだけの仕事よりは、自分たちもクリエイティブな部分に積極的に絡むことができる方が、仕事の充実感や喜びは大きい。

 そんな双方の気持ちがぴったりと合ったことで、日中の国境を飛び越えた製品開発が始まることになった。

日中の共同作業をつないだ3次元モデル

 両社では同じ3次元CAD(SolidWorks)を使用し、FTPサーバー上に3次元モデルの設計データを置き、3次元CADのデータを共有するようにした。日本と香港とはメールや電話を利用し、英語でのやり取りを行った。3次元CADのキャプチャ図に指示を書き込んだ資料が200〜300枚ぐらいやり取りされたという。

 以降では、2社間におけるやり取りで実際に使用された資料の一部を紹介していく。

設計課題 1: スライドアームがスカスカ


意訳「この足(スライドアーム)をひっくり返しませんか。なんか現状では、スカスカしていて、洗練されていない感じですよ。このように修正してくだされば、この壁を指でスマートにかつ簡単に押すことができるのでは。変更できない場合ですが、いくつかリブをはわせて、強度を確保して足を延長してはどうでしょう。中を見てくだされば(キーボードが閉まっているときで)、このスカスカ足は弱くて精度が高くない感じがすることが分かると思います。私たちは修正したほうがいいと思うんですが」

 「スライドアーム(筺体背面)は結果的に板厚そのものを増して、1枚の平坦な板にしました」(立石氏)

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